疾病の成りたちと回復の促進 第20回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
C)免疫不全症候群
a) 免疫不全症候群とは?
・ 免疫不全症候群とは抗体産生細胞の機能不全あるいは器質的障害に基づく症候群のことです。
b) 原発性免疫不全(げんぱつせいめんえきふぜん): 液性抗体の欠乏によるもの(無ガンマグロブリン血症など)、細胞性免疫の欠陥によるもの(重症免疫不全症など)、免疫系の欠陥以外に特徴のある異常を伴うもの(ウイスコット・アルドリック症候群など)に分類されます。
c) 続発性免疫不全(ぞくはつせいめんえきふぜん): 何らかの原因あるいは疾患によって2次的に引き起こされた免疫不全(リンパ系組織の腫瘍、免疫抑制療法後など)のことです。
D)エイズ(AIDS)
・ エイズはHIVというレトロウイルスの感染によっておこります。
・ HIVは外被糖蛋白gp120によってCD4陽性T細胞と結合し、細胞内に入ります。 ウイルスは逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ)を使ってRNAを鋳型としてDNAがつくり、ウイルス粒子が出芽していきます。 出芽したウイルスのgp120によってCD4陽性細胞が細胞融合をおこし、細胞は膜機能が失われ死滅ます。 この結果免疫不全がおこるのです。
・ HIV感染から抗体ができるまでの期間をウインドウ・ピリオドと呼び、この期間の検査では抗体が陰性となります。 抗体は殺ウイルス作用が弱く、またリンパ球内のウイルスには無力です。
E) 免疫細胞増殖症候群
・ 免疫細胞増殖症候群とは、抗体産生に関わる細胞の腫瘍性増殖または非腫瘍性増生をきたす疾患のことです。
・ B細胞性免疫増殖症候群とT細胞性免疫増殖症候群があります。
・ B細胞性免疫増殖症候群では免疫グロブリン産生細胞の単一クローンの増殖によりM蛋白の増加が認められます。
・ B細胞性免疫増殖症候群の代表的な疾患としては、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)(形質細胞腫)があります。
F)移植免疫
・ 臓器移植とは臓器の供与者(ドナー)の1部(移植片、グラフト)を他者(受容者レシピエント)に植え付けることです。
・ 移植片が受容者(または宿主、ホスト)に生着するか拒絶されるかは、組織適合抗原(そしきてきごうこうげん)によって決まります。 供与者と受容者の組織適合抗原が一致するか包含されると移植片は生着することになります。
・ 組織適合抗原の中に際立って強い移植免疫をひきおこす抗原があり、これを主要組織適合抗原と呼びます。 ヒトの場合、HLA(human leukocyte antigen)がそうです。
・ 移植拒絶反応を行うのは、細胞性免疫であり、T細胞が重要な役割を担っています。 T細胞は移植片の組織適合抗原を認識し、キラーT細胞が移植片の破壊を行います。
[設問] 原発性免疫不全に属するのはどれか? 一つ選べ。
イ エイズ ロ リンパ系の腫瘍 ハ 無ガンマグロブリン血症 ニ 白血病
正解 (ハ)
[設問] 免疫細胞増殖症候群に属するものはどれか? 一つ選べ。
イ 多発性骨髄腫 ロ エイズ ハ 重症免疫不全症 ニ 真性多血症
正解 (イ)
[設問] 移植拒絶反応においてT細胞が重要な役割を担うが、移植片を破壊するのはどれか? 一つ選べ。
イ ヘルパーT細胞
ロ キラーT細胞
ハ レギュラトリーT細胞
ニ NK細胞 正解 (ロ)
疾病の成りたちと回復の促進 第19回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
B) 自己免疫疾患
a) 自己免疫疾患とは?
・ 自己に対する抗体(自己抗体(じここうたい))が自己の細胞や組織を破壊しおこるものをいいます。
・ 自己の体細胞成分には、本来免疫学的寛容(めんえきがくてきかんよう)が成立していますが、これが破綻しておこるものです。
・ 自己免疫疾患の条件: 体温で反応する自己抗体を検出できること、この自己抗体と特異的に反応する抗原を証明すること、この抗原を用いて実験動物に抗体産生を証明すること、この抗原を用いて実験動物にヒト疾患と類似の病変をつくりうること……が条件となります。
b) 自己免疫疾患のいろいろ
・ SLE、関節リウマチ、リウマチ熱、多発性結節性動脈炎、全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、橋本病、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、若年性糖尿病、大動脈炎症候群(高安病)など
c)膠原病
・ 1942年にクレンペラーによって提唱されたものです。 慢性関節リウマチ(現、関節リウマチ)、SLE、皮膚筋炎、全身性強皮症、結節性動脈周囲炎、リウマチ熱の6疾患を検討し、膠原線維にフィブリノイド壊死という共通の所見を見つけ、一括して膠原病という病名を提唱しました。 しかし、現在種々の自己抗体が見つかり、自己免疫疾患に統合されています。
[設問] 下記の文の( )に入るべきものを選べ。
・自己免疫疾患は自己の体細胞成分に対する( )が破綻しておこるものである。
イ 自己抗体 ロ 拒絶反応 ハ 抗原 ニ 免疫学的寛容
正解 (ニ)
[設問] 以下より自己免疫疾患を二つ選べ。
イ インフルエンザ ロ 関節リウマチ ハ ライム病 ニ 重症筋無力症 ホ 筋強直性ジストロフィー
正解 (ロ、ニ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第18回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(7)免疫異常
A) アレルギー
a) アレルギーとは?
・ アレルギーとは、ある抗原に対する特異的な抗体が結合し、複雑な種々の反応が加わって局所あるいは全身の細胞・組織の傷害を伴う生体にとって不利な反応をいいます。 アレルギーをおこす抗原をアレルゲンといいます。
b) アレルギーのいろいろ
ア)即時型アレルギー
・ I型アレルギー(アナフィラキシー型アレルギー)
・ II型アレルギー(II型細胞傷害型反応): 細胞表面の抗原が抗体と結合して細胞溶解ないし傷害がおこる反応をII型アレルギーといいます。
・ III型アレルギー(III型免疫複合体による組織傷害): 抗原と抗体が結合した免疫複合体によっておこる組織破壊をいい、これに基づく疾患群を免疫複合体病(めんえきふくごうたいびょう)といいます。 III型アレルギーによる疾患には、糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、リウマチ様関節炎などがあります。
イ)遅延型アレルギー
・ IV型アレルギー: 即時型では液性抗体が働くのに対し、遅延型ではT細胞がエフェクターとして働き細胞性免疫が関与します。 反応は、抗原曝露後12時間ほどで始まり、24〜48時間でピークに達し、徐々に消えていきます。 ツベルクリン反応や接触性皮膚反応がこれによるものです。
[設問] アナフィラキシーショックはどれに属するものか?
イ I型アレルギー
ロ II型アレルギー
ハ III型アレルギー
ニ IV型アレルギー 正解 (イ)
[設問] 糸球体腎炎はどれによって起こる疾病か?
イ I型アレルギー
ロ II型アレルギー
ハ III型アレルギー
ニ IV型アレルギー 正解 (ハ)
[設問] ツベルクリン反応はどれによるものか?
イ I型アレルギー
ロ II型アレルギー
ハ III型アレルギー
ニ IV型アレルギー 正解 (ニ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第17回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(6)感染症
A)感染症とは?
・ 病原微生物の侵入によっておこる疾患を感染症(かんせんしょう)といいます。 また、感染症がヒトからヒトへと多くのヒトへ伝わっていく場合、伝染病(でんせんびょう)といいます。
B)感染と発症
・ 病原微生物(病原体)が体表面に付着あるいは体内に侵入し病巣を形成するまでを感染といいます。
・ 病巣が基になって一定の臨床症状が現れた場合、発症(はっしょう)といいます。
・ 感染後、発症までの期間を潜伏期(せんぷくき)といいます。
・ 感染後発症するのを顕性感染(けんせいかんせん)といい、発症せずに終わるのを不顕性感染(ふけんせいかんせん)といいます。
C)感染経路
a) 水平感染
ア)接触感染: 感染源に接触することによって感染
・ 直接接触: 接吻、性交などによるものです。
・ 間接接触: 病原体に汚染されたハンカチ、衣類、器物などによるものです。
イ)伝播体による感染: 病原体に汚染された感染源によるものです。
・ 経口感染: 水、牛乳、食物などの経口摂取による感染をいいます。
・ 経皮感染: 土などの皮膚、傷口への接触による感染をいいます。
・ 経気道感染: くしゃみ、咳などからの喀痰や唾液の小滴、塵埃を吸入することによる感染をいいます。
ウ)媒介体による感染: ノミ(ペスト菌)、蚊(日本脳炎)、犬(狂犬病ウイルス)、野兎(野兎病菌)などによるものです。
b)垂直感染
ア)経胎盤感染: 胎盤を介した母親から胎児への血行感染のことです。
イ)経産道感染: 分娩時におこる母親から胎児への感染のことです。
ウ)授乳による感染: 母乳を介した母親から乳児への感染のことです。
D)病原体の体内の蔓延経路
a) 連続的: 組織間隙を連続的に広がるもの。
b) 管内性: 気道、消化管など管状の器官の管腔を広がるもの。
c) リンパ行性: リンパ路を広がるもの。
d) 血行性: 血流を介して広がるもの。
E) 菌血症と敗血症
a) 菌血症: 血液中に病原菌が現れた場合にいいます。
b) 敗血症: 菌血症の状態から進み、宿主が抵抗力を失い重篤な全身症状を呈した場合にいいます。
F) 宿主の抵抗力
a) 自然抵抗力:
ア)好中球やマクロファージなどの食作用を持つ細胞の貪食能
イ)免疫グロブリン、乳汁、消化管などからの分泌型IgA抗体中の自然抗体、涙や唾液中のリゾチーム、乳汁や唾液のペルオキシダーゼなどの液性因子
ウ)補体(ほたい): 細菌の膜上で補体が活性化されると溶菌がおこります。 また、補体はオプソニンの1つとして微生物に結合し食作用を受けやすくする働きも持っています。
エ)CRP(C反応性蛋白): 細菌と結合し補体の活性化を促します。
オ)皮膚、粘膜などは自然のバリアーの機能を持っています。
b) 獲得抵抗力
・ 獲得免疫(かくとくめんえき)と呼ばれ、再感染時に反応し発病を抑える働きをします。
G) 最近の感染症の動向
・ 公衆衛生の改善、抗生物質などの化学療法の進歩、ワクチンの開発によって法定伝染病(ほうていでんせんびょう)は激減しています。
・ その中で、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの外来感染症、動物由来の感染症(西ナイルウイルス、トリ型インフルエンザウイルス感染症)が出現しています。
・ 性行為感染症(せいこういかんせんしょう)では、これまでの性病(淋病、梅毒、軟性下疳、鼠径リンパ肉芽腫症)に加え、非淋菌性尿道炎、陰部ヘルペス、クラミジア、毛ジラミ症、エイズなどの感染症が伝染するようになってきています。
・ その他、MRSAやVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)の出現や腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒の発生などが問題となっています。
[設問] 感染症における感染について述べたもので正しいものを選べ。
イ 感染症がヒトからヒトへと多くのヒトへ伝わっていく場合をいう。
ロ 病原体が体表面に付着あるいは体内に侵入した時をいう。
ハ 病原体が体表面に付着あるいは体内に侵入し、病巣を形成するまでをいう。
ニ 病原体が体表面に付着あるいは体内に侵入し、病巣が形成され、それが基になって一定の症状が現れた場合をいう。
正解 (ハ)
[設問] 垂直感染であるものを一つ選べ。
イ 蚊による日本脳炎の感染
ロ 胎盤を介した母親から胎児への感染
ハ 性交による感染
ニ 水の経口摂取による感染 正解 (ロ)
[設問] 最近の感染症の動向に関して、ただしいものを一つ選べ。
イ 法定伝染病は増加している。
ロ 重症急性呼吸器症候群(SARS)は、新型のヘルペスウイルスが原因であることがわかった。
ハ 性行為感染症としては、特に新たな感染症が出現していない。
ニ 最近では、MRSAやVREの出現や、腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒などの発生が問題となっている。
正解 (ニ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第16回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(5)炎症
A)炎症とは?
・ 炎症は病態の一つですが、傷害因子または傷害された組織に対する局所の一連の防御反応なのです。
( 細胞や組織は傷害を受けると、局所の変性、壊死などの退行性病変や循環傷害をおこす。その後に被害を最小限にとどめようと傷害因子を除き、損傷を修復、再生しようとする。これらの一連の防御反応を炎症といいます)
・ 炎症の4徴: 局所では、発赤、発熱、腫脹、疼痛がみられますが、これを炎症の4徴といいます。 機能喪失(きのうそうしつ)を加えると5徴となります。
・ 全身性の変化: 発熱、頻脈、白血球増多、赤血球沈降速度の亢進がみられます。
B)炎症の原因
・ 物理的因子、化学的因子、生物学的因子、その他の因子があります。
・ その他の因子には、局所の循環傷害、免疫複合体、種々の異物などががあります。
・ 上記の因子により細胞が破壊されると、ライソソームなどから酵素が放出され、多くの分解産物が生じケミカルメデイエーターとなります。
C)炎症に関与する細胞と機序
・ ケミカルメデイエーターの産生→血管透過性の亢進→血漿成分の滲出→白血球の遊走→白血球による貪食→肉芽組織による修復→瘢痕化
・ 炎症に関与する細胞の主たるものは血液細胞と間葉系細胞である。
D)炎症の分類
a)臓器による分類
・ 肺炎、肝炎、脳炎など
b)経過による分類
・ 急性炎症: 発症から数日〜半月程度でピークに達します。 組織学的には好中球を中心とした滲出現象が顕著です。
・ 慢性炎症: 急性炎症から移行する場合と、初めからゆっくりと数ヶ月〜数年の経過をとる場合があります。 組織学的にはリンパ球、形質細胞が出現し、線維芽細胞などの結合組織の増殖が著明となり肉芽形成、壊死などを伴っています。
・ 亜急性炎症: 急性炎症と慢性炎症の中間にあるものです。
c)炎症とケミカルメデイエーター
・ 炎症の急性期には局所の血管透過性の亢進と滲出液の流出と白血球の遊走がおこります。 これらを惹起するのが白血球遊走因子と呼ばれるケミカルメデイエーターです。
・ 血管透過性の亢進は早期の30分以内と、発症4〜5時間後の2つのピークがあり、1〜2日続きます。 最初のピークではヒスタミンが、2番目のピークではキニン類が働きます。
・ サイトカイン: 抗原などで刺激を受けた細胞が産生する液性因子(えきせいいんし)をサイトカインと呼びます。 リンパ球が免疫反応に際して産生するサイトカインは、リンホカインといいます。 リンホカインは抗体は含んでいません。 サイトカインは産生細胞の近くにある細胞や自身に作用するものです。 炎症に際して産生され機能するサイトカインを炎症性サイトカインと呼びます。 細菌感染でおこる好中球増加や核左方移動、炎症細胞の浸潤などは、その炎症性サイトカインの作用によるものです。
[設問] 炎症の4徴の組み合わせで正しいものを選べ。
イ 発赤・冷感・腫脹・疼痛
ロ 蒼白・発熱・萎縮・しびれ
ハ 発赤・発熱・腫脹・疼痛
ニ 蒼白・冷感・萎縮・しびれ 正解 (ハ)
[設問] 炎症に際して、ある細胞内小器官から酵素が放出されて分解産物をつくり、それがケミカルメディエーターとなるが、その細胞内小器官を選べ。
イ ミトコンドリア ロ ぺルオキシソーム ハ ゴルジ装置 ニ ライソソーム
正解 (ニ)
[設問] 炎症における血管透過性の亢進には二つのピークがみられるが、最初のピークは何によるか?
一つ選べ。
イ ヒスタミン ロ ブラジキニン ハ セロトニン ニ アドレナリン
正解 (イ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第15回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
C)ショック
a)ショックとは?
・ 循環血液量の低下により全身の末梢循環障害がおこり、これにより全身臓器が高度の酸素不足から機能低下をおこす結果生じる症候群です。
・ 循環血流量の低下には、大量出血で血管内の血液が激減した場合と、血圧低下などである一定の時間に流れる血液量が激減した場合があります。
・ 臨床的には、顔面蒼白(がんめんそうはく)、冷汗、刺激に対する反応性低下、血圧低下を示します。
b)神経原性ショック
・ 強い精神的な刺激、強い痛みなどで全身の毛細血管の拡張がおこり有効循環血液量(心臓に戻ってくる血液の量)の低下のため重要臓器の酸素不足が生じておこるものです。
c)心原性ショック
・ 心筋梗塞など心拍出能力が高度に低下したときにおこります。
d)低容量性ショック
・ 何らかの原因による出血、脱水、下痢など大量の体液が喪失したときにおこるものである。
e)敗血症性ショック(エンドトキシンショック)
・ 細菌(特にグラム陰性桿菌)により放出されるエンドトキシン(菌体内毒素)によりおこるものです。
f)アナフィラキシーショック
・ IgEを介したI型アレルギー反応によっておこるショックのことです。
g)ショックによる臓器障害
・ ショック腎: ショックによる腎血流量の低下により尿量減少がおこります。場合によっては尿細管壊死に至ることもあります。
・ ショック肺: ショックによって肺胞壁が障害され、間質性肺炎がおこります。重症化、慢性化すると呼吸不全をきたし死に至ることもあります。
・ DIC(播種性血管内凝固症候群): 血液凝固系の亢進のため全身の細小血管に血栓が形成され、多臓器不全をおこします。
D)高血圧による臓器障害
a)脳と心臓の血管系の障害
ア)脳血管障害
・ 高血圧性脳症: 血圧が急激に上昇すると脳水腫などがおこり、頭痛、悪心(おしん)、けいれん、意識障害などをきたすものです。
・ 脳内出血: 長年の高血圧などにより細小動脈の壁の脆弱化をきたし、さらに血圧が上昇したときに血管壁が破綻しておこるものです。
・ くも膜下出血: 高血圧などのために、もともと動脈壁の脆弱な部位に瘤ができ、血圧上昇の際に破綻しておこるものです。
イ) 心・血管系の障害
・ 心拡大: 高血圧が続くと左心室肥大→肺うっ血→右心室肥大へと進行していきます。
・ 大動脈瘤の形成
・ 冠状動脈やその他の細小動脈の動脈硬化の促進
・ 悪性高血圧: 高血圧が臓器障害をおこし、それによる脳、心臓、腎臓などの臨床症状を伴う場合をいいます。
E)動脈硬化症に伴う障害
・ アテローム硬化: アテローム硬化は大動脈(弾性動脈)と中動脈(筋性動脈)の内膜に平滑筋細胞、脂質、結合組織
が進行性に蓄積する病態をいいます。 この病態は心筋梗塞や脳梗塞の発症につながっていきます。
[設問] ショックで見られるものを二つ選べ。
イ 顔面蒼白
ロ 高血圧
ハ 冷や汗
ニ 過呼吸
ホ 精神的高揚 正解 (イ、ハ)
[設問] 強い痛み刺激でおこるショックはどれか?
イ 神経原性ショック
ロ 心原生ショック
ハ エンドトキシンショック
ニ アナフィラキシーショック 正解 (イ)
[設問] 脳内出血の原因として最も多いのはどれか?
イ 動脈瘤破裂 ロ 血管腫からの出血 ハ 高血圧 ニ 糖尿病
正解 (ハ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第14回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
b)血管壁の機能異常や破綻による出血
・ 出血とは全血が血管外に出ることをいいます。
・ 出血の機序には、破綻によるもの(外傷、動脈瘤など)と漏出によるもの(出血性素因など)があります。
・ 出血の影響としては、大量の場合はショック、周辺臓器の圧迫、気管支内におこれば窒息の原因となります。
c)血管内腔の閉塞による病変
ア)血栓(血栓症)
・ 血栓(けっせん)とは血管内壁で血液成分が凝固したものです。
・ 血栓形成の誘因としては、血管壁の変化(動脈硬化による)、血液成分の変化(血小板などの凝固因子の増加、脱水による血液濃縮など)、血流速度の変化(血圧低下など)があります。
イ)塞栓(塞栓症)
・ 塞栓(そくせん)とは血流に乗って異物(生理的には血管内にないもの)が動いてある箇所で内腔を完全に塞いで血流を遮断したものをいいます。
・ 塞栓の原因となる異物を栓子(せんし)と呼び、栓子には血栓、脂肪滴、腫(しゅ)瘍塊(ようかい)、気泡などがあります。
ウ)梗塞
・ 梗塞(こうそく)とは動脈内腔の完全な閉塞により灌流領域におこる乏血により組織壊死をおこしたものをいいます。
・ 原因としては塞栓、動脈硬化巣の血栓形成、血行力学的要因(血圧低下や血液の濃縮)があります。
・ 梗塞がゆっくりと進むと壊死には陥らず萎縮がおこります。
例)動脈硬化性萎縮腎
・ 心臓や腎臓などのように動脈支配が一本の終動脈だと組織は貧血性梗塞(白色梗塞)となり、肺や肝臓などのように二重に血管支配がある臓器では閉塞のない血管からの血流による出血をおこし、出血性梗塞がおこります。
d)血液・リンパの還流の異常
ア)水腫(浮腫)
・ 水腫(浮腫)(すいしゅ(ふしゅ))とは液状成分が間質の結合組織内や体腔内に過剰に蓄積した状態をいいます。
・ うっ血性水腫とは、静脈血の心臓への還流が悪く、全身の静脈圧が上昇、毛細血管内に血液が貯留し、血管壁の透過性が亢進して血液の液状成分が漏出しておこるものです。 心性水腫とも言われます。
・ 腎性水腫とは腎機能低下のため血漿蛋白が尿中へ排泄され、血漿膠質浸透圧が低下し、血液の液状成分が血管外へ出ておこります。
・ 肝性水腫とは肝硬変などで門脈圧が上昇し、毛細血管圧が高くなって腹腔内に液状成分が漏出した(腹水)ものです。肝障害があるとアルブミン合成が低下しますので、低蛋白血症をきたし、血漿膠質浸透圧が低下することも原因となります。
・ 腔水症(くうすいしょう)とは体腔内への液状成分が貯留するものをいいます。 水頭症、胸水、腹水、関節水症、心嚢水腫、陰嚢水腫などがあります。
・ 炎症性水腫とは炎症による毛細血管透過性の亢進のためおこるものをいいます。
・ 内分泌性水腫とは、甲状腺機能低下症や原発性アルドステロン症などによるものです。
・ 栄養障害性水腫とは、飢餓などによって蛋白質の摂取不足があって、おこるものです。
・ リンパ還流障害による水腫とは、悪性腫瘍や外科手術などによるリンパ管の閉塞によっておこるものです。
[設問] 血栓形成の誘因の組み合わせで正しいものはどれか? 一つ選べ。
イ 動脈硬化・血液希釈・血圧低下
ロ 動脈硬化・血液希釈・血圧上昇
ハ 動脈硬化・血液濃縮・血圧低下
ニ 動脈硬化・血液濃縮・血圧上昇 正解 (ハ)
[設問] 次の説明文で正しいものを一つ選べ。
イ 梗塞とは、動脈内腔の完全な閉塞により灌流領域におこる組織壊死をいう。
ロ 梗塞の原因は、塞栓と動脈硬化巣の血栓形成の二つだけである。
ハ 梗塞がゆっくり進むと、出血がおこる。
ニ 動脈支配が一本の終動脈だと組織には出血性梗塞がおこる。
正解 (イ)
[設問] うっ血性水腫で血管外に出るのは次のうちどれか?
イ 赤血球 ロ 好中球 ハ 血小板 ニ リンパ球 ホ 水
正解 (ホ)
[設問] 腎性水腫の原因はどれか? 一つ選べ。
イ 毛細血管透過性の亢進
ロ 毛細血管圧の上昇
ハ 血漿膠質浸透圧の低下
ニ 静脈圧の上昇 正解 (ハ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第13回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(4)循環障害
A)循環障害とは?
・ 循環障害とは、血管あるいは血流に異変がおこり、支配下の組織、臓器、器官に何らかの障害がおこるものをいいます。
・ その異変とは、血液の流れが過剰になったり減少したりすることです。
B)局所循環障害
a)血管内の血流の変化
ア)充血:
・ 充血(じゅうけつ)とは小動脈、毛細血管に流入する動脈血の量が正常より増加した状態をいいます。(流入の過剰)
・ 充血の原因には、食後の消化管粘膜におこる機能的なもの(次図中段)や炎症で血管が拡張する炎症性充血(次図下段)などがあります。
・ 局所変化として、皮膚や粘膜は鮮紅色になり熱感を伴います。 機能的なものでは、静脈側からの血液の流出が機能しますが、炎症性のものでは、機能が不十分で4つの徴候(発赤(ほっせき)、熱感、腫脹、拍動痛)がみられます。
イ)うっ血
・ うっ血とは静脈血の流出が妨げられて毛細血管や静脈内に血液がうっ滞した状態をいいます。(流出の停滞)
・ うっ血の原因には、心臓の機能低下、静脈内腔の狭窄・閉塞(静脈血栓、静脈炎などによる)、静脈圧迫(妊娠時の子宮、腹水、腫瘍などによる)があります。
・ 局所変化として、チアノーゼ(血液中の還元ヘモグロビンの増加により皮膚や粘膜が青紫色に見える現象)、冷感、膨隆(水腫)、硬結(こうけつ)がみられます。
ウ)虚血
・ 虚血(きょけつ)とは組織や臓器に流入する動脈血量が減少した状態をいいます。
・ 虚血の原因は、動脈内腔の狭窄あるいは閉塞であり、動脈硬化、動脈炎、血栓形成、塞栓などによります。
・ 局所変化は、ゆっくりと虚血が進行する場合には副血行路(ふくけっこうろ)の形成がおこり、急に完全な虚血がおこった場合は組織の壊死がおこります。 虚血が一過性の血管壁の収縮によるものであれば、完全な回復もおこりえます。
[設問] 炎症性充血が機能性充血と異なる点は次のうちどれか? 一つ選べ
イ 動脈血の流入量の増加
ロ 静脈血の流出量の低下
ハ 動脈血の流入量の減少
ニ 静脈血の流出量の増加 正解 (ロ)
[設問] うっ血について述べたのは、次のうちどれか?
イ 拍動痛がみられる。
ロ チアノーゼがみられる。
ハ 発赤、熱感がみられる。
ニ 動脈血の流入量の増加がみられる。 正解 (ロ)
[設問] 虚血がゆっくりと進行した時にみられるものはどれか? 一つ選べ。
イ チアノーゼ
ロ 壊死
ハ 出血
ニ 副血行路 正解 (ニ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第12回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
F)その他の代謝障害
a)高カルシウム血症
・ 上皮小体機能亢進症、ビタミンDの過剰摂取、腎機能不全、骨腫瘍などによっておこり、血管壁や尿細管上皮などにカルシウム沈着がおこります。
b)ウイルソン病
・ 常染色体劣性遺伝で、銅を運ぶ蛋白の異常によっておこる病気です。 銅の臓器や組織への沈着のため、肝硬変、大脳基底核の変性がおこります。 眼の角膜周辺部に銅が沈着すると緑褐色のリングが見え、カイザーフライシャー角膜輪(かくまくりん)と呼ばれます。
c)黄疸
・ ビリルビンは赤血球中にあり酸素の運び屋であるヘモグロビンの代謝産物で、肝臓で間接ビリルビンからグルクロン酸抱合を受け直接ビリルビンとなり胆汁中に排泄されていますが、この代謝障害によっておこるのが黄疸です。
・ 溶血性黄疸: 赤血球が大量に破壊される状態があるとおこりますが、この場合は、間接型ビリルビンが増えています。
・ 肝細胞性黄疸: 肝細胞の破壊によって間接型ビリルビンのグルクロン酸抱合ができず、また肝細胞によってつくられた胆汁が逆流するなどして起りますが、この場合、間接型、直接型ともに増えます。
・ 閉塞性黄疸: 胆管の通過障害によっておこるもので、胆汁うっ滞がおこり、胆汁はリンパ管から胸管、さらに血中に入り、黄疸がおこります。 この場合、直接型ビリルビンが増えます。
・ 核黄疸: Rh型、ABO型不適合によりおこる新生児重症溶血性黄疸で、血液脳関門が未熟なため、間接型ビリルビンが大脳基底核や脳幹に沈着し、脳性麻痺などをおこします。
[設問] ウイルソン病は次のどの遺伝形式か?
イ 常染色体性優性
ロ 常染色体性劣性
ハ 性染色体性優性
ニ 性染色体性劣性 正解 (ロ)
[設問] 次の説明文で正しいものを一つ選べ。
イ 上皮小体機能低下症は、高カルシウム血症の原因となる。
ロ ウイルソン病は銅を運ぶ蛋白の異常によっておこる。
ハ ウイルソン病では肝硬変とともに大脳皮質の変性がおこるのが特徴である。
ニ ビタミンDの摂取不良は高カルシウム血症の原因となる。
正解 (ロ)
[設問] 黄疸と増えるビリルビンの種類の組み合わせで正しいものを一つ選べ。
イ 核黄疸 --- 直接型ビリルビン
ロ 閉塞性黄疸 --- 間接型ビリルビン
ハ 肝細胞性黄疸 --- 間接型と直接型ビリルビンの両者
ニ 溶血性黄疸 --- 直接型ビリルビン 正解 (ハ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第11回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
D)核酸代謝障害
a)痛風
・ 核酸の成分であるプリン体の代謝障害によっておこるもので、最終代謝産物である尿酸が血中に増え、尿酸塩が関節周囲組織に沈着し有痛性の結節(痛風結節)ができるのです。
b)核酸代謝酵素欠損症
・ 核酸代謝にはたくさんの酵素が関与しており、それぞれの欠損症が知られています。
E)脂質代謝障害
a)高脂質血症
・ 血液中においてコレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)、リン脂質、遊離脂肪酸などの脂質が単独あるいは複数で高値となった状態を高脂質血症といいます。
b)肥満症
・ 肥満症とは標準体重を20%以上超えていて、全身の脂肪組織に中性脂肪が異常に蓄積した状態をいいます。 肥満も、内蔵に蓄積する中性脂肪がインスリン感受性低下の原因となるなど、代謝症候群の中核の異常として近年取り上げられています。
・ 単純性肥満症: 摂取エネルギー過剰によるものです。
・ 症候性肥満症: 内分泌障害、先天性異常、中枢神経系障害などによる2次的なものをいいます。
c)脂肪肝
・ 脂肪酸が過剰に肝臓に取り込まれ、中性脂肪も増加し、肝細胞内に脂肪が蓄積した状態をいいます。
・ アルコール、肥満、糖尿病、飢餓などでおこります。
d)脂質沈着症
・ 脂質の分解に関与するライソソームの酵素欠損により、肝臓や脾臓などの網内系細胞に類脂質が蓄積する疾患群のことです。
・ ゴーシェ病、ニーマンピック病などがあります。
[設問] 痛風は核酸の成分の代謝障害によるものであるが、その成分とはどれか?
イ プリン体 ロ 尿酸 ハ 遊離脂肪酸 ニ アンモニア
正解 (イ)
[設問] 血液中にコレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸などが単独、あるいは複数高値となったものを何というか? 一つ選べ。
イ メタボリック症候群 ロ 高脂質血症 ハ 内臓肥満症 ニ 動脈硬化症
正解 (ロ)
[設問] 肥満症とは標準体重を何%超えたものをいうか?
イ 10% ロ 15% ハ 20% ニ 25% 正解 (ハ)
[設問] 代謝(メタボリック)症候群の診断基準項目の組み合わせで正しいものを選べ。
イ 内臓肥満・高中性脂肪血症・低HDL血症・高血圧・空腹時高血糖
ロ 内臓肥満・高中性脂肪血症・高LDL血症・高血圧・空腹時高血糖
ハ 内臓肥満・高尿酸血症・高LDL血症・高血圧・空腹時高血糖
ニ 内臓肥満・高尿酸血症・低HDL血症・高血圧・空腹時高血糖
正解 (イ)
[設問] 脂肪肝の原因とされるものを二つ選べ。
イ アルコール ロ 喫煙 ハ 飢餓 ニ エクササイズ ホ 高血圧
正解 (イ、ハ)