疾病の成り立ちと回復の促進 第6回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
イ)多因子遺伝病(複数の病原遺伝子と環境因子が発現に関与)
・ 多因子遺伝病では、大きな効果を及ぼす病原遺伝子(1~数個)があり、他の複数の遺伝子や環境因子がさらに効果を加えることによっておこります。
例)糖尿病、高血圧症、悪性腫瘍 など
ウ)トリプレットリピート病
・ DNA上には正常でも3個の塩基からなる3塩基配列が繰り返す部位があるが、その繰り返しが異常に多く長くなったために発症する遺伝病が近年多数見つかってきました。
・ 最も多い3塩基配列の異常延長はCAGの異常延長です(下図)。
例)ハンチントン病、マチャド・ジョセフ病など
D)奇形
a) 奇形とは?
・ 奇形とは胎生期の変化で、出生時の傷害によるものや出生後障害は含みません。 つまり、母親のお腹の中でおこる臓器、器官の形態異常のことです。
b)奇形の種類
・ 重複奇形と単体奇形(外表奇形と内臓奇形)、単独奇形と合併奇形
c)重複奇形
ア) 非対称性分離重複体
・ 1児が正常で他児に著しい発育障害をきたすもの
イ) 結合体
・ 身体の一部で結合したままのもの(頭蓋結合体、胸部結合体など)
d)単体奇形
ア)全身性の奇形
・ 内臓逆位症(ぎゃくいしょう): 内臓が左右逆の位置にあるもの
ウ) 顔面の奇形
・ 口蓋裂(こうがいれつ)、口唇裂(こうしんれつ)など
エ) 頭部の奇形
・ 無脳症など
オ) 頸部の奇形
・ 甲状舌管(こうじょうぜっかん)の遺残など
カ) 体幹の外表または内臓奇形
・ 横隔膜ヘルニア、二分脊椎(にぶんせきつい)、食道気管支瘻、鎖肛(さこう)、馬蹄腎(ばていじん)、重複子宮など
キ) 四肢の奇形
・ 多指(たし)(趾)症、合指(ごうし)(趾)症、内反足(ないはんそく)など
e)奇形の発生要因
ア)概略: 1個の病原遺伝子によるもの、染色体異常によるもの、多因子(遺伝的因子+環境因子)によるもの、環境因子によるものなどいろいろです。
イ)両親の年齢との関係: 母親の年齢が高いほどやや発生頻度が高まる。父親の年齢の影響は少ないといわれます。
ウ)性差: 臓器毎では性差は若干みられますが、全体では性差はありません。
エ)環境因子
・ 生物学的因子: 風疹(ふうしん)ウイルス→白内障、心奇形、内耳性聾(ろう);サイトメガロウイルス、トキソプラスマ
・ 物理的因子: 放射線、酸素欠乏、羊水過多や羊膜癒着、胎児の異常体位 など
・ 化学的因子: サリドマイド、有機水銀(胎児性水俣病)、アルコール、抗けいれん薬、ホルモン異常など
オ)催奇形要因に対する感受性の高い時期
・ 受精より第2週末までの胚子(はいし)発生期では障害があると胚子の多くは死滅します。
・ 受精後第3~10週末を胎芽期(たいがき)といい、器官形成期にあたるため、大多数の奇形はこの時期の障害によることが多いといわれています。
・ 受精後第3~12週を奇形発生の臨界期(りんかいき)と呼びます。
・ 受精後第11週~出産までを胎児期といい、頻度は少ないが環境因子の影響を受けるといわれています。
[設問] トリプレットリピート病であるものを選べ。
イ デュシャンヌ型筋ジストロフィー
ロ 血友病
ハ ハンチントン病
ニ エナメル質形成不全症 正解 (ハ)
[設問] 次の説明文で正しいものを一つ選べ。
イ 奇形とは胎生期と出生時の傷害によるものを含めていう。
ロ 胸部結合体は奇形の種類では、単体奇形に含まれる。
ハ 内臓逆位症は単体奇形である。
ニ 奇形の発生要因では、父親の年齢が高いほど発生頻度が高まり、母親の年齢の影響は少ない。
正解 (ハ)
[設問] 奇形発生の臨界期といわれるのは次のどれか?
イ 受精から第2週末まで
ロ 受精後第3~10週
ハ 受精後第3~12週
ニ 受精後第12~20週 正解 (ハ)