成人看護学(65)(認知機能・コミュニケーション障害を持つ患者の看護) [成人看護学]
(5)意識障害の程度と原因、日常生活への影響
・ 意識障害は、原因疾患から、脳梗塞、脳出血、脳挫傷、クモ膜下出血、脳炎などによる脳の1次的障害と、低血糖・高血糖、心原性ショック、呼吸不全、肝不全、腎不全、薬物中毒などによる2次的障害に分けられます。
・ 意識障害の原因や程度によって日常生活への影響は異なります。 一般的には、意識障害によって、自己で基本的ニードを充足できなくなります。
(6)注意・記憶障害と心身・日常生活への影響
・ 記憶障害には、直前あったことを忘れる瞬時記憶障害、少し前におこったことを忘れる短期記憶障害、昔のことを忘れる長期記憶障害があります。
・ 見当識障害には、居る場所がわからない「場所の見当識障害」、周りにいる人と自分の関係がわからなくなるという「人の見当識障害」、日付などがわからなくなる「場所の見当識障害」があります。
・ 注意・記憶障害があると、患者のストレスや不安、疲労感が増大することがあり、家庭内・社会的役割が果たせなくなります。
(7)空間認知症害の原因と程度、心身・日常生活への影響
・ 右大脳半球の病変で左半側空間無視がおこることが多く、一般に中大脳動脈領域の脳梗塞でおきます。
・ 半側空間無視があると、無視側のものにぶつかりやすくなり、食事では無視側の食物を残してしまいます。
(8)言語機能障害の原因と程度、心身・日常生活への影響
・ 構音障害は、球麻痺や仮性球麻痺の症状の1つです。球麻痺は延髄を中心とした病変でおこります。
・ 失語症の一つである運動性失語は、優位半球の前頭葉のブローカ領とその周辺領域の病変でおこり、多くは中大脳動脈領域の脳梗塞や脳出血でおきます。
・ 感覚性失語は、優位半球側頭葉のウエルニッケ領と中側頭回後半部を中心とした領域の病変でおこり、多くは中大脳動脈皮質枝の梗塞によるものです。
・ 言語機能が障害されると、コミュニケーションが困難となり、意思の疎通ができないため、精神的にストレスが強くなります。
[設問] 意識障害の原因疾患として、2次性障害の原因となりうるものはどれか? 一つ選べ。
イ 脳梗塞 ロ 脳腫瘍 ハ 脳炎 ニ 低血糖
正解 (ニ)
[設問] 球麻痺は次のどの部位の病変でおこるのか?
イ 前頭葉 ロ 小脳 ハ 中脳 ニ 延髄
正解 (ニ)
[設問] 居る場所、周りにいる人との関係、日付などがわからなくなるのは次のどれか?
イ 健忘 ロ 見当識障害 ハ 相貌失認 ニ 観念失行 ホ 注意障害
正解 (ロ)
[設問] 脳梗塞の患者が食事を器の左半分だけ残している。この患者の看護で注意すべき点は次のどれか? 一つ選べ。
イ 移動時に左側にあるものにぶつかりやすいことに留意する。
ロ 誤嚥に注意が必要である。
ハ 至急、眼科受診を勧める。
ニ 食器の形状を検討する。 正解 (イ)
成人看護学(64)(認知機能・コミュニケーション障害を持つ患者の看護) [成人看護学]
(4)神経学的検査
・ 神経学的検査は、精神機能(高次脳機能を含む)、脳神経、運動機能、反射、感覚機能、協調運動、姿勢・起立・歩行などを検査して、病変の広がり・分布を診断するものです。
・ 失語症の検査は、話す、聴く、読む、書くという4つの方法で行います。 標準失語症テスト(SLTA)は定量的な方法です。
・ 学習している行動や動作が行なえない状態を失行といい、手袋をはめる、マッチで火をつける、シャツを着るなどの動作をしてもらって観察します。
・ 意識レベル、記憶(瞬時・短期・長期)、計算力(100—7→93—7)、見当識(場所、時、人)などを調べます。
・ 脳神経: 嗅神経(においがわかるか?)、 視神経(視力、視野、瞳孔、対光反射などがどうか?)、 動眼・滑車・外転神経(眼球運動はどうか?眼振の有無は?)、 三叉神経(顔面の感覚、咀嚼筋に異常はないか?)、 顔面神経(顔面筋、舌前2/3の味覚に異常はないか?)、 内耳神経(聴覚、平衡覚に異常はないか?)、 舌咽・迷走神経(舌後ろ1/3の味覚、嚥下、構音に異常はないか?)、 副神経(僧帽筋・胸鎖乳突筋に脱力はないか?)、 舌下神経(舌の動きに異常はないか?)の12対の脳神経について評価します。
・ 運動障害は、徒手筋力テスト(MMT)による筋力の評価、筋緊張の異常の有無、不随意運動の有無、運動失調の有無などで評価します。
・ 筋緊張の亢進は、錐体路や錐体外路の障害でおこり、筋緊張の低下は末梢神経や小脳の障害でおこります。
・ 反射には、表在反射(腹壁反射、角膜反射、咽頭反射)と 深部反射(下顎反射、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、橈骨反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射)があり、正常ではみられない病的反射(バビンスキー反射、チャドック反射など)があります。
・ バビンスキー反射
[設問] 脳神経と機能の組み合わせで正しいものを一つ選べ。
イ 視神経 --- 眼球運動
ロ 滑車神経 --- 視野
ハ 顔面神経 --- 顔面の感覚
ニ 三叉神経 --- 咀嚼
ホ 舌咽神経 --- 舌の動き 正解 (ニ)
[設問] 病的反射を二つ選べ。
イ アキレス反射 ロ バビンスキー反射 ハ 上腕二頭筋反射 ニ モロー反射 ホ チャドック反射
正解 (ロ、ホ)
成人看護学(63)(認知機能・コミュニケーション障害を持つ患者の看護) [成人看護学]
(2)言語の表出と理解の観察
・ 言語障害には、言語中枢が障害されておこる失語症と、音を構成する筋肉の運動障害による構音障害があります。
・ 失語症には、運動性失語(ブローカ失語)と感覚性失語(ウエルニッケ失語)があります。 運動性失語の場合、他人の話す言葉は理解できますが、自分で意識的に話そうとするとうまく話せなくなります。 また、感覚性失語では自分の言葉はなめらかにしゃべれますが、言葉の間違いが多く、他人の言葉が理解できなくなります。
(3)環境認知の観察
・ 感覚機能の障害がないのに、形や色、空間など、さまざまな感覚を通じて得た情報について、その内容や意味がわからない状態を失認と呼びます。
・ 失認には、視覚性失認、聴覚性失認、触覚性失認、病態失認があります。 半側空間失認に関しては、失認ではなく無視した状態といわれ、半側空間無視と呼ばれることが一般です。 半側空間無視は、右頭頂葉の頭頂連合野の病変でおこることが多いとされています。
・ ゲルストマン症候群は、手指失認、左右失認、失書、失算を伴った病態のことで、優位半球の頭頂葉病変によりおこります。
[設問] 運動性失語が起るのはどの部位の病変か?
イ 優位半球の前頭葉
ロ 優位半球の後頭葉
ハ 優位半球の側頭葉
ニ 脳幹 正解 (イ)
[設問] 半側空間無視はどの部位の病変でおこるといわれているか?
イ 左前頭葉 ロ 右前頭葉 ハ 左頭頂葉 ニ 右頭頂葉
正解 (ニ)
[設問] ゲルストマン症候群の症候の組み合わせを選べ。
イ 失語・空間無視・失算・失読
ロ 手指失認・左右失認・失算・失書
ハ 失語・手指失認・失行・失算
ニ 左右失認・失読・失行・空間無視
正解 (ロ)
成人看護学(62)(認知機能・コミュニケーション障害を持つ患者の看護) [成人看護学]
18.認知機能・コミュニケーション障害をもつ患者の看護
1)観察とアセスメント
(1)意識障害の診察法
・ 意識障害とは、覚醒度が落ちて、刺激に対する反応が低下または消失している状態をいいます。
・ 意識障害の判定スケールには、ジャパンコーマスケール(3−3−9度方式)、グラスゴーコーマスケール(GCS)があります。
・ 意識障害の随伴症状として、眼球位置異常、瞳孔異常、対光反射の消失、髄膜刺激症状、呼吸パターンの異常、姿勢異常、呼吸・血圧・脈拍・体温の異常などがあります。
・ 髄膜刺激症状のあるなしは、項部硬直やケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候の有無を観察することで行います。
・ 異常呼吸パターンには、チェーンストークス呼吸や中枢性過呼吸、失調性呼吸があり、いずれも重篤な状態の時におこるものです。
[設問] 髄膜刺激症状の判定につかわれるものを一つ選べ。
イ チネル徴候 ロ ファーレン徴候 ハ ケルニッヒ徴候 ニ ロンベルグ徴候
正解 (ハ)
[設問] 脳梗塞などでみられ、一回換気量がしだいに増加し、その後、しだいに減少する呼吸が繰り返される状態を何というか?
イ クスマウル呼吸 ロ ビオー呼吸 ハ 失調性呼吸 ニ チェーンストークス呼吸
正解 (ニ)
[設問] 脳ヘルニアなどで見られる片眼の瞳孔散大はどの脳神経の障害によるものか?
イ 視神経 ロ 動眼神経 ハ 外転神経 ニ 滑車神経
正解 (ロ)
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