疾病の成りたちと回復の促進 第26回(免疫機構) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(4)体液性免疫と細胞性免疫
A)体液性免疫
・ ある抗原に対して特異抗体を産生し、その抗体を介する免疫反応を体液性免疫と呼びます。
・ 抗体は、抗原と特異的に反応する糖蛋白(とうたんぱく)(糖と蛋白からなる物質)であり、血清中の免疫グロブリンとして存在しています。
・ 抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD、IgMがあります。
・ IgGは血清抗体の主役で、感染防御の中心的役割を果たしており、胎盤を通過する唯一の抗体です。
・ IgMは初感染後、最初に産生される抗体です。
・ IgAの分泌型は、乳汁、唾液、涙、粘液などに含まれ、粘膜の感染防御に役立ち、また母乳中に含まれるため新生児の感染防御に役立っています。
・ IgEはI型アレルギーに関与します。
B)細胞性免疫
・ 活性化したマクロファージは殺菌作用を持ち、さらにさまざまなサイトカインを産生して炎症反応を促進します。
・ 細胞傷害性T細胞は、ウイルスなどの感染した細胞や腫瘍細胞に対し、抗原特異的に(抗原提示により認識した抗原に対し)傷害を与えます。
・ NK細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞に対し、抗原非特異的に(抗原の種類に関係なく)傷害を与えます。
C)各種病原体に対する免疫系の働き
・ 細菌外毒素: 破傷風毒素やボツリヌス毒素などの外毒素(がいどくそ)に対しては、抗毒素中和抗体(こうどくそちゅうわこうたい)が働きます。
・ 細胞外の細菌: 黄色ブドウ球菌などの感染では、まず粘膜面で分泌型IgAが細菌の付着を妨げます。 他方、病原体に対する抗体がオプソニンとして働き、サイトカインによって好中球や活性化したマクロファージが集められ貪食、殺菌が行われます。 これに補体が加わって殺菌の効率が上がるのです。
・ 細胞内の細菌: マクロファージの中で増殖する結核菌などには、抗体がつくられても感染には役に立ちません。 そのため、細胞傷害性T細胞が感染マクロファージを破壊し、病原体を追い出し、活性化マクロファージが貪食、殺菌します。 また、活性化マクロファージや活性化T細胞は肉芽腫(にくがしゅ)をつくり、病原体を閉じ込めます。
・ ウイルス: インターフェロンが細胞に働きウイルスの増殖を抑制し、細胞傷害性T細胞やNK細胞を活性化し、ウイル
ス感染細胞を破壊することによってウイルスの増殖の場を無くします。
[設問] 抗体はどんな物質か? 以下より選べ。
イ 糖脂質 ロ 糖蛋白 ハ リン脂質 ニ ペプチド
正解 (ロ)
[設問] 胎盤を通過する抗体は次のどれか?
イ IgG ロ IgM ハ IgA ニ IgD ホ IgE
正解 (イ)
[設問] 初感染後、最初につくられる抗体は次のどれか?
イ IgG ロ IgM ハ IgA ニ IgD ホ IgE
正解 (ロ)
[設問] 母乳中に含まれ、新生児の感染防御に役立つのはどれか?
イ IgG ロ IgM ハ IgA ニ IgD ホ IgE
正解 (ハ)
[設問] 粘膜面で黄色ブドウ球菌の付着を妨げるのはどれか?
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ マクロファージ ホ 分泌型IgA
正解 (ホ)
[設問] 細胞外にある細菌を貪食、殺菌するのは次のどれか?
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ マクロファージ ホ NK細胞
正解 (ニ)
[設問] 感染マクロファージを壊して病原体を追い出すのはどれか?
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ 好中球 ホ 好酸球
正解 (ロ)
[設問] ウイルス感染細胞を破壊してウイルスの増殖の場をなくすのはどれか? 二つ選べ。
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ NK細胞 ホ インターフェロン
正解 (ロ、ニ)
疾病の成りたちと回復の促進 第25回(免疫機構) [疾病の成り立ちと回復の促進]
3)免疫機構
(1)免疫とは?
・ 免疫とは、外部から侵入する微生物や移植された同種組織および体内に生じた不要産物などと反応して特異的な抗体をつくり、これらを排除して個体の恒常性を維持する現象です。
・ 免疫応答とは、生体が自己と異なるものを抗原と認識し、特異的に抗体を産生して抗原に対応し処理する一連の防御機構のことをいいます。
(2)免疫担当細胞
A)T細胞
・ 骨髄の幹細胞由来のリンパ系の細胞で胸腺に入り、増殖、分化した後末梢のリンパ組織に分布している細胞がT細胞であり、Tは胸腺(Thymus)のTです。
・ T細胞にはヘルパーT細胞(CD4分子を発現)、細胞傷害性T細胞(CD8分子を発現)、制御性T細胞があります。
B)B細胞
・ リンパ系の細胞で骨髄の影響を受けて分化し、末梢リンパ組織に分布しているのがB細胞です。
・ B細胞は抗原刺激を受けると抗体産生を行う形質細胞(けいしつさいぼう)となります。
C)マクロファージと樹状細胞
・ マクロファージは骨髄の造血幹細胞由来の単球から分化する細胞で食作用を持ち、異物を貪食、処理します。 マクロファージは抗体、補体に対する受容体を持っており、それらの結合した病原体を貪食します。 この貪食を促進する抗体や補体のことをオプソニンといいます。
・ 樹状細胞(じゅじょうさいぼう)は、分解した抗原をT細胞に提示する代表的な抗原提示細胞(こうげんていじさいぼう)です。 マクロファージやB細胞も抗原提示能を持っています。
D)顆粒球
・ 好中球は、炎症のあるところに集まり、貪食、殺菌作用を示します。
・ ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、抗原の種類に関係なく非特異的に細胞傷害性を示す細胞です。
(3)抗原提示
・ 抗原である異物がマクロファージや樹状細胞に貪食・分解されるとHLAと結合して細胞表面に提示されます。 これを抗原提示といいます。 これをきっかけにその後の細胞性免疫と体液性免疫が発動していくことになります。
[設問] 直接、抗体をつくる細胞はどれか?
イ B細胞 ロ ヘルパーT細胞 ハ 細胞傷害性T細胞 ニ 形質細胞
正解 (ニ)
[設問] CD4分子を発現するのはどれか?
イ B細胞 ロ ヘルパーT細胞 ハ 細胞傷害性T細胞 ニ 形質細胞
正解 (ロ)
[設問] CD8を発現するのはどれか?
イ B細胞 ロ ヘルパーT細胞 ハ 細胞傷害性T細胞 ニ 形質細胞
正解 (ハ)
[設問] マクロファージは、何から分化する細胞か? 一つ選べ。
イ 単球 ロ 好中球 ハ 好酸球 ニ 好塩基球
正解 (イ)
[設問] 抗原提示能を持つのはどれか? 二つ選べ。
イ マクロファージ ロ 樹状細胞 ハ 好塩基球 ニ 好中球 ホ T細胞
正解 (イ、ロ)
[設問] 抗原の種類に関係なく非特異的に細胞傷害を示すのはどれか?
イ 好中球 ロ 好酸球 ハ 好塩基球 ニ NK細胞 正解 (ニ)
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疾病の成りたちと回復の促進 第24回(修復と再生) [疾病の成り立ちと回復の促進]
2. 回復の促進
1)総論
・ 疾病の回復に働く因子にも内因と外因がある。
・ 内因: 生体に本来備わっている再生・修復機能、免疫機構 など
・ 外因: 薬物療法、栄養、環境因子 など
2)修復と再生能
(1)概論
・ 修復とは、変性、壊死(退行性変化)によって組織傷害や欠損がおこった場合に、周辺の正常細胞の細胞分裂、増殖によって健常な細胞、組織に置換、補填されることをいいます。
・ 再生とは、生体の一部が欠損した場合、その部位が固有の細胞、組織で補われる現象をいいます。
(2) 細胞分裂と増生
A) 細胞の細胞分裂の可能性から分類
a) 分裂を繰り返す細胞: 表皮基底細胞、血液幹(かん)細胞、精祖細胞 など。この場合、分裂前と分裂後の細胞が同じで変化がありません。
b) 分裂と分化を繰り返す細胞: 前赤芽球、骨髄芽球など。 この場合、分裂を繰り返しながら段階的に分化していきます。
c) 分化した細胞で、正常では分裂しないが、分裂能は持っている細胞: 肝細胞、腺上皮細胞など。
d) 分裂能を失った細胞: 神経細胞、心筋細胞、赤血球など。
(3) 再生
・ 一般に、個々の細胞の脱落に対しては隣接する細胞が分裂することによって再生する過程が生理的に行われています。 (皮膚、粘膜の重層扁平上皮、消化管粘膜の円柱上皮、腺上皮)
・ 病的な状態で細胞分裂により再生が行われる臓器もあります。(肝臓、膵臓)
・ 欠損が大きいと、完全再生は不可能で、部分再生、あるいは肉芽による修復の結果、瘢痕となります。
(4) 肥大
A) 肥大とは?
・ 肥大とは、機能的需要の増大に反応して、組織、臓器が容積を増す状態のことです。
・ 生理的肥大と病的状態に続いておこる病的肥大に分けることがあります。
B)作業性肥大
・ アスリートのスポーツ心、発達した骨格筋(生理的肥大)、高血圧による肥大した心筋(病的肥大)などをいいます。
C)内分泌性肥大
・ 授乳期の乳腺肥大(生理的肥大)、子宮内膜増殖症(病的肥大)、成長ホルモン過剰による末端肥大症(病的肥大)などがあります。
D)仮性肥大
・ 筋ジストロフィーの腓腹筋の肥大などがあります。
(5)化生
・ 化生(かせい)とは慢性の刺激に反応して、分化、成熟した細胞が異なる形態や機能を示すに至る状態をいいます。
・ 子宮頸管上皮や気道上皮の扁平上皮化生(腺上皮または線毛円柱上皮→扁平上皮)、逆流性食道炎での腺様化生(扁平上皮→腸上皮)、慢性胃炎での腸上皮化生(腸上皮型の単細胞腺の出現)などがあります。
(6)肉芽
・ 肉芽(にくげ)とは、組織欠損、組織傷害、異物の侵入に反応して間葉系組織の強い新生、特に線維芽細胞の増生によって形成される組織のことをいいます。
・ 肉芽の役割としては、創傷治癒、器質化(線維化、瘢痕化)、被包化(ひほうか)(異物などの周囲に肉芽が新生して結節状になること)があります。
(7)創傷治癒
・ 1次性治癒: 創傷が大きな組織の欠損を伴わず、創面を外科的に容易に密着させうる場合におこる治癒機転で、肉芽形成は少ないものです。
・ 2次性治癒: 創傷が大きい場合、欠損部位の補填のために比較的大きな肉芽を形成し、瘢痕形成、周辺組織の再生などみられる場合をいいます。
・ ケロイド: 修復に際し、肉芽形成が過剰におこると周囲より盛り上がって瘢痕化します。 これをケロイドと呼びます。
[設問] 次の細胞の中で、分裂能を失ったものを一つ選べ。
イ 表皮基底細胞 ロ 骨髄芽球 ハ 肝細胞 ニ 赤血球
正解 (ニ)
[設問] アスリートの発達した骨格筋は次のどれにあたるか?
イ 病的肥大 ロ 作業性肥大 ハ 内分泌性肥大 ニ 仮性肥大
正解 (ロ)
[設問] 化生についての説明で正しいものを一つ選べ。
イ 慢性の刺激に反応して、分化、成熟した細胞が異なる形態や機能を示すことをいう。
ロ 機能的需要の増大に反応して、容積が増すことをいう。
ハ 周辺の正常細胞の細胞分裂、増殖によって健常な細胞、組織に置換、補填されることをいう。
ニ 生体の一部が欠損した時、固有の細胞、組織で補われる現象をいう。
正解 (イ)
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疾病の成りたちと回復の促進 第23回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
E) 腫瘍の内因・外因・発生機序
a) 内因(腫瘍素因)
ア) 臓器: 臓器によって腫瘍のできやすさに差があります。 十二指腸には癌が少なく、心臓・脾臓には原発性腫瘍は稀です。
イ) 年齢: 中年以降に悪性腫瘍の発生頻度は加速度的に増加していきます。 若年者や小児には白血病、神経系腫瘍、肉腫の割合が多いとされています。
ウ) 性: 悪性腫瘍全体の頻度は男性で高いのですが、乳癌、胆嚢癌、甲状腺癌は女性に多いといわれます。
エ) 人種: 欧米では生殖器(前立腺、子宮)や乳癌が多く、日本では消化器、特に胃癌が多いといわれています。
オ) 遺伝: 家族性に発生する腫瘍としては網膜芽腫、家族性大腸ポリポーシス、多発性神経線維腫(フォン・レックリン
グハウゼン病)があります。
b) 外因
ア) 化学的因子: ベンゾピレン(タバコの煙、排気ガスに含まれる)、アニリン誘導体、ジメチルアミノアゾベンゼン、ナイト
ロジェンマスタード、ポリ塩化ビフェニル、ベンゼン
ヘキサクロライド など
イ)物理的因子:
・ 機械的刺激 舌癌
・ 高温ないし火傷: 皮膚癌
・ 光線・紫外線: 皮膚癌
・ 放射線: 白血病、肺癌、口腔癌、甲状腺癌 など
ウ)生物学的因子
・ ウイルス
エ)癌遺伝子
・ 原型癌遺伝子(げんけいがんいでんし)(癌原(がんげん)遺伝子): もともとは正常の細胞が受精発育、分化成長していく過程では必要不可欠な遺伝子なのに、細胞を癌化する能力のある遺伝子のことをいいます。
・ ウイルス癌遺伝子: 腫瘍発生にかかわる、ウイルスが内蔵する癌遺伝子のことです。
オ)癌抑制遺伝子
・ 正常な遺伝子で、癌化を抑制する働きのあるもののことです。
カ)発癌のしくみ
・ 発癌は癌遺伝子の活性化に始まります。 これをイニシエーションといい、ひきおこす因子をイニシエーターといいます。 また、癌化した細胞を増殖させる因子をプロモーターといいます。
[設問] 癌の発生が最も少ないものを選べ。
イ 食道 ロ 胃 ハ 十二指腸 ニ 大腸 正解 (ハ)
[設問] 家族性に発生するものを一つ選べ。
イ 乳癌 ロ 肺癌 ハ 白血病 ニ 多発性神経線維腫 正解 (ニ)
[設問] 因子と発生する腫瘍の組み合わせで正しいものを一つ選べ。
イ 機械的刺激 --- 肺癌
ロ 紫外線 --- 胃癌
ハ 放射線 --- 甲状腺癌
ニ アルコール --- 脳腫瘍 正解 (ハ)
疾病の成りたちと回復の促進 第22回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
D) 悪性腫瘍の進展と生体への影響
a) 浸潤と転移
・ 浸潤とは腫瘍細胞が周期の組織の隙間に割り込んで連続性に発育することをいい、転移とは腫瘍細胞が原発巣(げんぱつそう)とは離れた場所に非連続的な発育を行って新たな増殖巣(ぞうしょくそう)をつくることをいいます。
b)転移の種類
ア)リンパ行性転移: 癌組織の所属リンパ節からリンパ管を経由して転移する場合をいいます。 胃癌などがリンパ管→胸管を経由して左鎖骨上窩(さこつじょうか)リンパ節に転移した場合、これを特にウイルヒョウの転移と呼びます。
イ)血行性転移: 血管内に侵入した腫瘍細胞が、腫瘍細胞栓子として遠くに運ばれ、着床(ちゃくしょう)し増殖して場合をいいます。 一般に肉腫はリンパ行性転移より血行性転移が多いといわれます。
ウ)播種(はしゅ): 胸膜、腹膜、髄膜などに沿って表面を種をまくように小転移巣が広がる場合をいいます。 進行するにつれ滲出液が貯留します。 癌性胸膜炎、癌性腹膜炎、癌性髄膜炎などもこの範疇に入ります。 胃癌などがダグラス窩(直腸膀胱)に播種した場合シュニッツラーの転移と呼びます。
エ)その他: 気管支癌などでは、管腔内転移がおこります。
c)全身的影響
ア)循環障害: 腫瘍の機械的な圧迫による血行障害、腫瘍塞栓、低蛋白血症のための浮腫、末期にはDICなどがおきます。
イ)感染症: 腫瘍そのものによる免疫能の低下に加え免疫抑制作用のある治療のため免疫不全がおこり、日和見(ひよりみ)感染症などもおこりやすくなります。
ウ)悪疫質: 蛋白質の消費が多くなり、免疫能の低下、栄養不良などのため体力の消耗が進み顕著なやせがおこります。
d)ラテント癌とオカルト癌
[設問] ウイルヒョウの転移はどれに属するか?
イ リンパ行性転移
ロ 血行性転移
ハ 播種
ニ 管腔内転移 正解 (イ)
[設問] 癌性腹膜炎はどれによる転移か?
イ リンパ行性転移
ロ 血行性転移
ハ 播種
ニ 管腔性転移 正解 (ハ)
[設問] シュニッツラーの転移はどれによるものか?
イ リンパ行性転移
ロ 血行性転移
ハ 播種
ニ 管腔性転移 正解 (ハ)
疾病の成りたちと回復の促進 第21回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(8)腫瘍
A) 腫瘍とは?
・ 腫瘍とは、生体固有の細胞が無制限かつ不可逆的に増殖し、体表または体内に継続的に新たな体積を占める病変のことです。
B)良性腫瘍と悪性腫瘍
a) 良性と悪性の一般的相違点
ア)発育: 良性は緩徐、悪性は急速
イ)発育の前線: 良性は限局性で境目が明らか、悪性は周囲へ浸潤
ウ)臓器機能: 良性では機能障害は軽度、悪性では高度
エ)転移: 良性ではみられず、悪性では高頻度
オ)全身への影響: 良性では少、悪性では著明
カ)手術による摘除: 良性では容易、悪性では全摘困難
キ)再発: 良性では少、悪性では高頻度
ク)予後: 良性では良好、悪性では不良
b) 病理学的相違点
ア)肉眼的所見: 良性は表面が平滑で、境界明瞭、単純な膨張性発育、悪性では表面が不規則で、境界不鮮明で、膨張性+浸潤性(しんじゅんせい)発育
イ)組織学的所見: 良性では細胞配列が保たれ(構造異型(いけい)なし)、個々の細胞や核の大きさや形がそろっている(細胞異型なし)のに対し、悪性では細胞配列はくずれ、細胞や核の大きさや形がばらばらです(異型性(いけいせい))。
ウ)細胞学的所見:
・ 核/細胞比が高いほど未分化(みぶんか)で、悪性度が高くなります。
・ 核分裂像が多いほど、悪性度が高くなります。
・ 核の形が異様で不規則なもの、濃く染まるものほど悪性度が高くなります。
・ 組織内に壊死が見られるほど、悪性度が高くなります。
C) 組織発生に基づく腫瘍の分類
a) 上皮性腫瘍
・ 皮膚、粘膜上皮、腺上皮などから発生した腫瘍をいいます。
・ 上皮性腫瘍で悪性のものを癌腫(がんしゅ)と呼びます。
b)非上皮性腫瘍
・ 筋肉、骨、軟骨、軟部組織(線維、脂肪、神経など)の非上皮性組織から発生した腫瘍をいいます。
・ 非上皮性組織由来の悪性腫瘍を肉腫(にくしゅ)と呼びます。
c)混合腫瘍、その他
・ 2種類以上の異なる組織由来の細胞群からなる腫瘍を混合腫瘍といいます。
・ 乳腺の線維腺腫、唾液腺の多形成腺腫、奇形腫などがあります。
[設問] 以下より悪性腫瘍の特徴を二つ選べ。
イ 周囲へ浸潤する傾向が強い。
ロ 臓器の機能障害は軽度である。
ハ 転移はみられない。
ニ 再発が高頻度である。
ホ 全身への影響はないか、少ない。 正解 (イ、ニ)
[設問] 悪性腫瘍の病理学的特徴を二つ選べ。
イ 表面が平滑である。
ロ 境界は不鮮明である。
ハ 細胞配列が保たれている。
ニ 核/細胞比が低い。
ホ 核分裂像が多く、濃く染まる。 正解 (ロ、ホ)
[設問] 以下の文で正しいものを一つ選べ。
イ 上皮性腫瘍で悪性のものを肉腫と呼ぶ。
ロ 筋肉から発生した悪性腫瘍は癌腫である。
ハ 2種類以上の異なる組織由来の細胞群からなるのは、混合腫瘍である。
ニ 腺上皮から発生した腫瘍は、混合腫瘍である。
正解 (ハ)
疾病の成りたちと回復の促進 第20回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
C)免疫不全症候群
a) 免疫不全症候群とは?
・ 免疫不全症候群とは抗体産生細胞の機能不全あるいは器質的障害に基づく症候群のことです。
b) 原発性免疫不全(げんぱつせいめんえきふぜん): 液性抗体の欠乏によるもの(無ガンマグロブリン血症など)、細胞性免疫の欠陥によるもの(重症免疫不全症など)、免疫系の欠陥以外に特徴のある異常を伴うもの(ウイスコット・アルドリック症候群など)に分類されます。
c) 続発性免疫不全(ぞくはつせいめんえきふぜん): 何らかの原因あるいは疾患によって2次的に引き起こされた免疫不全(リンパ系組織の腫瘍、免疫抑制療法後など)のことです。
D)エイズ(AIDS)
・ エイズはHIVというレトロウイルスの感染によっておこります。
・ HIVは外被糖蛋白gp120によってCD4陽性T細胞と結合し、細胞内に入ります。 ウイルスは逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ)を使ってRNAを鋳型としてDNAがつくり、ウイルス粒子が出芽していきます。 出芽したウイルスのgp120によってCD4陽性細胞が細胞融合をおこし、細胞は膜機能が失われ死滅ます。 この結果免疫不全がおこるのです。
・ HIV感染から抗体ができるまでの期間をウインドウ・ピリオドと呼び、この期間の検査では抗体が陰性となります。 抗体は殺ウイルス作用が弱く、またリンパ球内のウイルスには無力です。
E) 免疫細胞増殖症候群
・ 免疫細胞増殖症候群とは、抗体産生に関わる細胞の腫瘍性増殖または非腫瘍性増生をきたす疾患のことです。
・ B細胞性免疫増殖症候群とT細胞性免疫増殖症候群があります。
・ B細胞性免疫増殖症候群では免疫グロブリン産生細胞の単一クローンの増殖によりM蛋白の増加が認められます。
・ B細胞性免疫増殖症候群の代表的な疾患としては、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)(形質細胞腫)があります。
F)移植免疫
・ 臓器移植とは臓器の供与者(ドナー)の1部(移植片、グラフト)を他者(受容者レシピエント)に植え付けることです。
・ 移植片が受容者(または宿主、ホスト)に生着するか拒絶されるかは、組織適合抗原(そしきてきごうこうげん)によって決まります。 供与者と受容者の組織適合抗原が一致するか包含されると移植片は生着することになります。
・ 組織適合抗原の中に際立って強い移植免疫をひきおこす抗原があり、これを主要組織適合抗原と呼びます。 ヒトの場合、HLA(human leukocyte antigen)がそうです。
・ 移植拒絶反応を行うのは、細胞性免疫であり、T細胞が重要な役割を担っています。 T細胞は移植片の組織適合抗原を認識し、キラーT細胞が移植片の破壊を行います。
[設問] 原発性免疫不全に属するのはどれか? 一つ選べ。
イ エイズ ロ リンパ系の腫瘍 ハ 無ガンマグロブリン血症 ニ 白血病
正解 (ハ)
[設問] 免疫細胞増殖症候群に属するものはどれか? 一つ選べ。
イ 多発性骨髄腫 ロ エイズ ハ 重症免疫不全症 ニ 真性多血症
正解 (イ)
[設問] 移植拒絶反応においてT細胞が重要な役割を担うが、移植片を破壊するのはどれか? 一つ選べ。
イ ヘルパーT細胞
ロ キラーT細胞
ハ レギュラトリーT細胞
ニ NK細胞 正解 (ロ)
疾病の成りたちと回復の促進 第19回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
B) 自己免疫疾患
a) 自己免疫疾患とは?
・ 自己に対する抗体(自己抗体(じここうたい))が自己の細胞や組織を破壊しおこるものをいいます。
・ 自己の体細胞成分には、本来免疫学的寛容(めんえきがくてきかんよう)が成立していますが、これが破綻しておこるものです。
・ 自己免疫疾患の条件: 体温で反応する自己抗体を検出できること、この自己抗体と特異的に反応する抗原を証明すること、この抗原を用いて実験動物に抗体産生を証明すること、この抗原を用いて実験動物にヒト疾患と類似の病変をつくりうること……が条件となります。
b) 自己免疫疾患のいろいろ
・ SLE、関節リウマチ、リウマチ熱、多発性結節性動脈炎、全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、橋本病、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、若年性糖尿病、大動脈炎症候群(高安病)など
c)膠原病
・ 1942年にクレンペラーによって提唱されたものです。 慢性関節リウマチ(現、関節リウマチ)、SLE、皮膚筋炎、全身性強皮症、結節性動脈周囲炎、リウマチ熱の6疾患を検討し、膠原線維にフィブリノイド壊死という共通の所見を見つけ、一括して膠原病という病名を提唱しました。 しかし、現在種々の自己抗体が見つかり、自己免疫疾患に統合されています。
[設問] 下記の文の( )に入るべきものを選べ。
・自己免疫疾患は自己の体細胞成分に対する( )が破綻しておこるものである。
イ 自己抗体 ロ 拒絶反応 ハ 抗原 ニ 免疫学的寛容
正解 (ニ)
[設問] 以下より自己免疫疾患を二つ選べ。
イ インフルエンザ ロ 関節リウマチ ハ ライム病 ニ 重症筋無力症 ホ 筋強直性ジストロフィー
正解 (ロ、ニ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第18回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(7)免疫異常
A) アレルギー
a) アレルギーとは?
・ アレルギーとは、ある抗原に対する特異的な抗体が結合し、複雑な種々の反応が加わって局所あるいは全身の細胞・組織の傷害を伴う生体にとって不利な反応をいいます。 アレルギーをおこす抗原をアレルゲンといいます。
b) アレルギーのいろいろ
ア)即時型アレルギー
・ I型アレルギー(アナフィラキシー型アレルギー)
・ II型アレルギー(II型細胞傷害型反応): 細胞表面の抗原が抗体と結合して細胞溶解ないし傷害がおこる反応をII型アレルギーといいます。
・ III型アレルギー(III型免疫複合体による組織傷害): 抗原と抗体が結合した免疫複合体によっておこる組織破壊をいい、これに基づく疾患群を免疫複合体病(めんえきふくごうたいびょう)といいます。 III型アレルギーによる疾患には、糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、リウマチ様関節炎などがあります。
イ)遅延型アレルギー
・ IV型アレルギー: 即時型では液性抗体が働くのに対し、遅延型ではT細胞がエフェクターとして働き細胞性免疫が関与します。 反応は、抗原曝露後12時間ほどで始まり、24〜48時間でピークに達し、徐々に消えていきます。 ツベルクリン反応や接触性皮膚反応がこれによるものです。
[設問] アナフィラキシーショックはどれに属するものか?
イ I型アレルギー
ロ II型アレルギー
ハ III型アレルギー
ニ IV型アレルギー 正解 (イ)
[設問] 糸球体腎炎はどれによって起こる疾病か?
イ I型アレルギー
ロ II型アレルギー
ハ III型アレルギー
ニ IV型アレルギー 正解 (ハ)
[設問] ツベルクリン反応はどれによるものか?
イ I型アレルギー
ロ II型アレルギー
ハ III型アレルギー
ニ IV型アレルギー 正解 (ニ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第17回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(6)感染症
A)感染症とは?
・ 病原微生物の侵入によっておこる疾患を感染症(かんせんしょう)といいます。 また、感染症がヒトからヒトへと多くのヒトへ伝わっていく場合、伝染病(でんせんびょう)といいます。
B)感染と発症
・ 病原微生物(病原体)が体表面に付着あるいは体内に侵入し病巣を形成するまでを感染といいます。
・ 病巣が基になって一定の臨床症状が現れた場合、発症(はっしょう)といいます。
・ 感染後、発症までの期間を潜伏期(せんぷくき)といいます。
・ 感染後発症するのを顕性感染(けんせいかんせん)といい、発症せずに終わるのを不顕性感染(ふけんせいかんせん)といいます。
C)感染経路
a) 水平感染
ア)接触感染: 感染源に接触することによって感染
・ 直接接触: 接吻、性交などによるものです。
・ 間接接触: 病原体に汚染されたハンカチ、衣類、器物などによるものです。
イ)伝播体による感染: 病原体に汚染された感染源によるものです。
・ 経口感染: 水、牛乳、食物などの経口摂取による感染をいいます。
・ 経皮感染: 土などの皮膚、傷口への接触による感染をいいます。
・ 経気道感染: くしゃみ、咳などからの喀痰や唾液の小滴、塵埃を吸入することによる感染をいいます。
ウ)媒介体による感染: ノミ(ペスト菌)、蚊(日本脳炎)、犬(狂犬病ウイルス)、野兎(野兎病菌)などによるものです。
b)垂直感染
ア)経胎盤感染: 胎盤を介した母親から胎児への血行感染のことです。
イ)経産道感染: 分娩時におこる母親から胎児への感染のことです。
ウ)授乳による感染: 母乳を介した母親から乳児への感染のことです。
D)病原体の体内の蔓延経路
a) 連続的: 組織間隙を連続的に広がるもの。
b) 管内性: 気道、消化管など管状の器官の管腔を広がるもの。
c) リンパ行性: リンパ路を広がるもの。
d) 血行性: 血流を介して広がるもの。
E) 菌血症と敗血症
a) 菌血症: 血液中に病原菌が現れた場合にいいます。
b) 敗血症: 菌血症の状態から進み、宿主が抵抗力を失い重篤な全身症状を呈した場合にいいます。
F) 宿主の抵抗力
a) 自然抵抗力:
ア)好中球やマクロファージなどの食作用を持つ細胞の貪食能
イ)免疫グロブリン、乳汁、消化管などからの分泌型IgA抗体中の自然抗体、涙や唾液中のリゾチーム、乳汁や唾液のペルオキシダーゼなどの液性因子
ウ)補体(ほたい): 細菌の膜上で補体が活性化されると溶菌がおこります。 また、補体はオプソニンの1つとして微生物に結合し食作用を受けやすくする働きも持っています。
エ)CRP(C反応性蛋白): 細菌と結合し補体の活性化を促します。
オ)皮膚、粘膜などは自然のバリアーの機能を持っています。
b) 獲得抵抗力
・ 獲得免疫(かくとくめんえき)と呼ばれ、再感染時に反応し発病を抑える働きをします。
G) 最近の感染症の動向
・ 公衆衛生の改善、抗生物質などの化学療法の進歩、ワクチンの開発によって法定伝染病(ほうていでんせんびょう)は激減しています。
・ その中で、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの外来感染症、動物由来の感染症(西ナイルウイルス、トリ型インフルエンザウイルス感染症)が出現しています。
・ 性行為感染症(せいこういかんせんしょう)では、これまでの性病(淋病、梅毒、軟性下疳、鼠径リンパ肉芽腫症)に加え、非淋菌性尿道炎、陰部ヘルペス、クラミジア、毛ジラミ症、エイズなどの感染症が伝染するようになってきています。
・ その他、MRSAやVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)の出現や腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒の発生などが問題となっています。
[設問] 感染症における感染について述べたもので正しいものを選べ。
イ 感染症がヒトからヒトへと多くのヒトへ伝わっていく場合をいう。
ロ 病原体が体表面に付着あるいは体内に侵入した時をいう。
ハ 病原体が体表面に付着あるいは体内に侵入し、病巣を形成するまでをいう。
ニ 病原体が体表面に付着あるいは体内に侵入し、病巣が形成され、それが基になって一定の症状が現れた場合をいう。
正解 (ハ)
[設問] 垂直感染であるものを一つ選べ。
イ 蚊による日本脳炎の感染
ロ 胎盤を介した母親から胎児への感染
ハ 性交による感染
ニ 水の経口摂取による感染 正解 (ロ)
[設問] 最近の感染症の動向に関して、ただしいものを一つ選べ。
イ 法定伝染病は増加している。
ロ 重症急性呼吸器症候群(SARS)は、新型のヘルペスウイルスが原因であることがわかった。
ハ 性行為感染症としては、特に新たな感染症が出現していない。
ニ 最近では、MRSAやVREの出現や、腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒などの発生が問題となっている。
正解 (ニ)