在宅看護論(10 )(在宅における生活支援の方法と技術) [在宅看護論]
2)排泄
(1)排泄障害のアセスメント
・ 家屋の構造、居室からトイレまでの距離、トイレ様式、床上排泄やおむつ着用の有無、褥瘡感染やスキントラブルの有無を確認します。
・ 排泄障害の原因となる既往歴をチェックします。
・ 排尿障害には、排尿困難と尿失禁があり、尿失禁にはトイレに着くまでがまんできない機能性尿失禁や尿意がなく膀胱にある程度尿が溜まると漏れる反射性尿失禁などがあります。
・ 排便障害では、下痢、便秘、便失禁の有無や、便の性状、便意や下剤服用の有無について確認し、排便習慣や随伴症状などについての情報を収集します。
・ 排泄行動の一連の動作
・ 水分摂取量、食事量と食事内容、意識状態・精神状態からも排泄障害に関係する要因がないかどうかを検討します。
・ 排泄障害があると、家族への依存度が高くなるため、家族の介護力や介護者との関係、排泄に関する価値観なども確認します。
(2)排泄補助用具
・ トイレまでは行けるが、便座からの起立動作が不安定で転倒の危険性がある場合は、補高便座を使用し、トイレ内に手すり設置を考慮します。
・ 冬期での寒冷刺激を軽減するためには、便座やトイレ内の温度調節ができる設備が望ましいかと。
・ ポータブルトイレと手持ち式尿器
・ 男性で、夜間頻尿や尿が常時排出される場合は、コンドーム型収尿器を使用するとよいのですが、皮膚のかぶれ予防のためにも1日以上の装着は避け、交換時は陰部洗浄をする必要があります。
・ 寝たきりで尿意がある時は、受尿蓄尿部別体型収尿器の使用を検討します。
・ 歩行可能で、自分でトイレに行くことができるが、下着を汚す頻度が高い療養者には、パンツ式オムツが適しています。
・ 関節可動域に制限があり、寝たきり度が高い療養者には、テープ式オムツが適しており、オムツの尿漏れを予防するために尿取りパッドを併用することもあります。
(3)尿失禁時の援助
・ 尿失禁とは、不随意にあるいは抑制できずに排尿される状態をいい、療養者の自信を喪失させやすいため、心理的配慮が必要です。
・ 尿失禁により陰部や寝具、寝衣の洗濯物が増え、家族の介護負担は増加するため、着脱しやすい衣服やトイレへの導線の短縮を図るよう援助が必要です。
・ 尿失禁を気にして活動範囲が狭まらないように、吸収性が高く消臭効果のあるパッド類や失禁パンツなどを活用します。
・ 腹圧性尿失禁のリハビリテーションとして、骨盤底筋群収縮訓練があります。
・ 切迫性尿失禁や機能性尿失禁には、失禁前に定期的にトイレ誘導する定期排尿法が適しています。
・ プライバシーの保護に努め、消臭剤や換気などに留意します。
(4)便失禁時の援助
・ 便失禁とは、便やガスが不随意に肛門から排出される状態です。
・ 便失禁は、羞恥心を伴い精神的苦痛も大きいため、プライバシーが守られる環境を確保し、療養者に対する精神的援助を行います。
・ スキントラブルを予防するために、入浴や清拭、陰部洗浄、更衣、皮膚保護剤の使用など、便が付着した皮膚に清潔援助が必要です。
・ 肛門括約筋機能訓練
・ 一定時間にトイレに行き排便習慣が獲得できるように誘導し、生活リズムを調整することは、便失禁だけでなく、便秘改善のための援助にもなります。
・ 水分摂取量は控えずに、規則的な食事摂取と脱水予防のためにも水分やスポーツドリンクなど電解質の補充に留意します。
・ 薬物の内服による作用・副作用による便失禁の場合は、便の性状を観察し、主治医と効果的な与薬を検討します。
[設問] 歩行可能で自分でトイレに行くことはできるが、下着を汚す頻度が高い療養者に適した排泄補助用具は次のどれか? 一つ選べ。
イ ポータブルトイレ ロ 手持ち式収尿器 ハ コンドーム型収尿器 ニ パンツ式オムツ
正解 (ニ)
[設問] 骨盤底筋群収縮訓練が適応となるのは次のどれか? 一つ選べ。
イ 腹圧性尿失禁 ロ 切迫性尿失禁 ハ 機能性尿失禁 ニ 反射性尿失禁
正解 (イ)
在宅看護論(9)(在宅における生活支援の方法と技術) [在宅看護論]
4.在宅における生活支援の方法と技術
1)食
(1)食事摂取能力のアセスメント
・ 療養者の全身状態や認知機能、体重減少や栄養状態、原疾患や合併症の有無などを把握します。
・ 療養者の食事内容や食事環境、摂食時の姿勢、調理する人などについて、情報を収集します。
・ 摂食行動
・ 先行期では、座位耐久性や摂食姿勢、上肢機能などをアセスメントし、準備期は咀嚼機能だけでなく、口唇の閉鎖不全・歯牙欠損・義歯の状態などを観察します。
・ 口腔期の障害で、口腔の閉鎖不全があると、いつまでも食塊が口腔内に残ります。 咽頭期の障害では、嚥下時にむせや咳嗽があります。 鼻に食物が入る場合は、鼻咽腔の閉鎖不全の可能性があります。
・ 流涎は、嚥下障害を示していることが多く、随意的な咳ができるかどうかを確認することは重要です。 なぜなら、咳ができれば、誤嚥時に食塊を喀出できることになるからです。
・ 食後の咳嗽や喀痰の増加、声質が変わる、発熱などは不顕性誤嚥のサインのことがあります。
(2)摂食障害時の援助
・ 摂食意欲が低下している人には、身体面と精神面の両方からアプローチを行います。 食欲は、食物の形、味、香り、温度、外見、量、本人の嗜好などによって左右されます。
・ 食具、一口の量、口に運ぶ間隔などが療養者に適しているかどうかを含め、介護者の技術を確認します。
・ 療養者自身あるいは介護者が調理できない時は、ホームヘルパー制度や配食サービスの活用など社会資源について情報を提供していきます。
(3)嚥下障害時の援助
・ 嚥下障害には、腫瘍術後や食道狭窄などの構造的嚥下障害と、動きや感覚に障害がある場合の機能的嚥下障害があります。
・ 嚥下障害をもつ療養者の多くは、脳梗塞などによる仮性球麻痺患者です。
・ 咽頭期の障害があると咽頭反射が遅いため、液体は誤嚥の危険性が高く、むせやすくなります。
・ 食塊としてまとまりやすい食品を利用し、きざみ食・軟らかい食事・増粘剤を使用したとろみのある食事など調理方法を工夫します。
・ 嚥下障害があれば、パサパサした食物や粘稠度の高い食物(もちなど)は避けるのが賢明です。
・ 嚥下機能を改善するには、 口を閉じたり突き出したり、頬をふくらませたりする口唇・頬の運動や、 舌を上下・左右に動かす舌の運動、 嚥下反射を誘発させるための喉のアイスマッサージなどの対策があります。
・ 口腔ケアには、口腔内細菌の繁殖を抑制し、誤嚥性肺炎を予防する効果があります。
[設問] 食事の時にむせや咳がみられる場合、摂食行動のどの時期の障害か?
イ 先行期(認知期) ロ 準備期(咀嚼期) ハ 口腔期 ニ 咽頭期 ホ 食道期
正解 (ニ)
[設問] 最近、食後に咳が出て痰がからみ、ごろごろした声に変わっているとの介護者からの報告があった。何を疑うか? 一つ選べ。
イ 咽喉頭炎 ロ 不顕性誤嚥 ハ 慢性閉塞性肺疾患 ニ 逆流性食道炎
正解 (ロ)
[設問] 嚥下障害の要因となる仮性球麻痺の原因疾患は次のどれが多いか? 一つ選べ。
イ ALS ロ 脊髄小脳変性症 ハ 多発脳梗塞 ニ ベル麻痺
正解 (ハ)
[設問] 咽頭のアイスマッサージは何が目的か?
イ 口腔清拭 ロ 口腔乾燥の防止 ハ 嚥下機能の改善 ニ 構音障害の改善
正解 (ハ)
在宅看護論(13) (在宅における医療管理を必要とする人と看護)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-06-07