在宅看護論(7)(在宅看護の特徴) [在宅看護論]
4)家族介護者の理解と健康支援
(1)家族介護者のアセスメント
・ 家族介護者のアセスメントは、次の視点から行います。 「療養者が必要としているケア」 「家族介護者が実施しているケアの内容や量と介護負担感」 「家族介護者の背景」 「家族介護者の健康・生活問題」 「家族構成、家族関係、他の家族員の理解や協力の有無」 「フォーマルまたはインフォーマルサポートの状況」
(2)家族関係の調整
・ 家族システム理論では、家族を 「家族成員は互いに循環的・円環的に影響を及ぼし合う」 「家族全体の力は単なる総和以上のもの」 ととらえます。
・ 家族の中に健康問題を持つ家族成員が生じると、家族成員それぞれの役割や生活の再調整が必要となります。
・ 援助者は、家族成員がどのように影響を及ぼしあっているかを捉え、家族の中でおこる悪循環や問題があれば、調整を行う必要があります。
・ 家族関係の調整が必要な場合とは、家族成員の1人に介護の負担が偏っている、療養者の希望と家族の意向に乖離が生じている、家族成員の間で介護に関する考え方に違いがある、暴力が生じている場合などです。
・ 家族関係の調整としては、家族成員がお互いの感情や関心を伝え合うことができるようにします。 そして、家族の労をねぎらい、努力を褒める、社会資源の導入を検討するなどがあります。
(3)介護方法の指導
・ 病院から在宅療養に移行する場合は、在宅で必要な介護知識・技術の指導は入院中に行われることが望まれます。
・ 在宅療養を行うためには、療養者と家族が、生活全般(食事、排泄、入浴、寝衣交換、体位交換など)や医療処置(経管栄養法や膀胱留置カテーテル、人工呼吸器などに関連するケアなど)、病状、健康管理、リハビリテーションの知識・技術を習得することが必要となります。
・ 指導においては、療養者・家族の理解度や知識・技術の習得状況を把握しながら、療養者・家族が実施可能な方法をともに考え、療養者・家族の持つ力が発揮できるような方向で援助を行うことが重要です。
・ 訪問看護では、施設看護と違い、24時間援助できないので、予防的な視点から指導を行うことが必要となります。
(4)家族介護者の健康
・ 在宅での看護においては、療養者のみではなく家族成員の健康状態や発達課題にも目を向けることが大事です。
・ 家族介護者自身も慢性疾患を抱えていたり、高齢であったりする場合もあります。また、介護者、特に主介護者は、睡眠不足、人間関係上のストレス、家事の負担などから健康問題を生じやすくなっています。
・ 家庭介護者の健康管理に向けた援助としては、訪問時に介護者の話を傾聴すること、介護の工夫や食事・運動方法の指導、社会資源の導入、レスパイトケアの活用などがあります。
[設問] 家族システム理論について正しいものを一つ選べ。
イ 一人の家族メンバーの変化は家族全体に影響する。
ロ 家族一人一人は社会とつながらないが、家族全体ではつながっている。
ハ 家族は維持しようとする力のみを持つ。
ニ 家族がまとまってもその力は、家族のメンバーを合わせた以上のものにはならない。
正解 (イ)
在宅看護論(6)(在宅看護の特徴) [在宅看護論]
(4)閉じこもりの防止
・ 閉じこもりの要因は、歩行障害、視聴覚障害、尿失禁などの身体的要因、うつ状態や意欲の低下、転倒への恐怖心など心理的要因、家屋の構造上の問題や道路の不整備、介護者の不足などの環境要因が複合的に影響しています。
・ 閉じこもりの予防には、「家庭内での役割が持てるようにする」 「生活リズムを整える」 「活動しやすいように環境を整える」 「地域や近隣住民との交流が持てるようにする」 「外出を援助する」 「社会資源を活用する」 などの対策法があります。
(5)虐待の防止
・ 我が国では、1999年に「児童虐待の防止等に関する法律」が施行され、国および地方公共団体に、早期発見、人材確保、通告義務などの責務が課せられました。
・ 虐待は 「身体的虐待」 「心理的虐待」 「性的虐待」 「養育・介護の放棄または怠慢」 の大きく4つに分類され、高齢者虐待の場合はこれに 「経済的虐待」 が加わります。
・ 家庭訪問の際は、療養者に不自然な外傷はないか、皮膚や衣類などが不潔でないか、怯えて緊張していないか、家族・介護者が療養者を無死したり、責めたりしていないかなどの虐待の発生を疑う徴候を観察し、虐待の予防・早期発見につなげることが重要です。
・ 虐待のリスクを予測するために、介護者・養育者の身体的・精神的・経済的負担、元々の人間関係、介護や育児協力者の有無などを把握していきます。
・ 虐待がおこりそうだと予測される、あるいは虐待がおこっている場合には、被虐待者の保護や家族関係の調整に行き、社会資源を活用し、介護者・育児者が休息できるように援助したりするなどのタイムリーな援助が必要となります。
・ 虐待の予防、早期発見・対応は地域の関係機関が連携し、ネットワークの中で援助していくことが重要です。
(6)災害時の被災予防
・ 高齢者や子供、病気を抱えた在宅家族は「災害弱者」であり、災害の犠牲になりやすくなっています。
・ 平常から 「少なくとも3日分の非常食や水・医薬品、電源、携帯燃料」 酸素療法や人工呼吸器を使用している家庭では、「携帯酸素ボンベ・人工呼吸器の内部バッテリー、予備の機器、手動式蘇生バック、機器に付属する消耗品」などの備えが必要となります。
・ 人工透析者、インスリン自己注射、在宅酸素療法、人工呼吸器装着などは、平常から主治医や医療機器業者、市町村の防災担当者と医薬品・医療の確保方法を相談するように助言します。 また、連絡先の一覧をわかるところに貼っておくようにします。
・ 医療機器は定期的に保守点検し、災害時に使用できるよう家族・近隣の協力者に指導します。
・ 災害時に療養者をどうやって運び出すか、避難場所・方法を家族と確認しておくことが必要です。
・ 1人暮らしの高齢者の場合、災害時に家族のだれと連絡をとるのか、近隣の協力員は誰にするかなど、あらかじめ取り付けておけるように援助します。
(7)介護力不足の予測
・ 家族の小規模化に伴い、家族だけで介護を担うことが困難になってきています。
・ 援助者は、家族の介護力を判断・評価し 「介護力を向上させる」 「介護力の不足を補う」 方向での援助を行います。
・ 家族介護者の介護力が低下すると、療養者のケアが不十分となるため、家族介護者の疲労や健康問題に対して予防的に援助を行うことが重要です。
・ 家族の介護力のアセスメントは 「家族の理解力・判断力」 「介護知識・技術」 「体力・健康状態・介護負担」 「就労の有無」 「療養者と主介護者との関係」 「他家族員の協力」 「介護意欲」 「社会資源の活用」 といった視点から行っていきます。
・ 家族の介護力を高めるために介護知識・技術の教育、家族関係の調整、社会資源の活用の仕方の指導、精神的サポートなどの援助を行います。
・ 家族の負担軽減のため、ショートステイの利用などによるレスパイトケアサービスの拡充が望まれています。
[設問] 虐待の防止について正しい文を一つ選べ。
イ 1999年に施行された「児童虐待の防止などに関する法律」が施行され、国および地方公共団体に、早期発見、人材確保、通告義務などの責務が課せられた。
ロ 高齢者虐待は「身体的虐待」と「心理的虐待」の二つに分類される。
ハ 介護者と信頼関係を保つため、家庭訪問で療養者に虐待を受けている徴候がないかを観察するのは避けるようにする。
ニ プライバシーの問題があるので、介護者の経済的負担などには干渉しないようにする。
正解 (イ)
[設問] 在宅療養者の介護について、以下の文で正しいものを一つ選べ。
イ 介護は家族だけで行うように指導する。
ロ 援助する場合、家族には全力をあげて介護をやるように精神面で指導する。
ハ 家族介護者の披露や健康問題に対して、予防的に援助を行うことも重要である。
ニ ショートステイの利用などのレスパイトケアサービスは一過性の効果しかないので、意義は少ない。
正解 (ハ)