基礎看護学(3)(看護の概念) [基礎看護学]
3)人間にとっての健康
(1)健康の捉え方
・ WHOの健康に関する考え方は、健康を人間の基本的権利の1つであるとして、国家に対して国民の健康について責任を持つことを求めています。
・ 健康と健康でない状態というのは区別がつくようなものでなく、連続線上にあるものと考えられ、健康—疾病連続体とも呼ばれます。
(2)健康に影響を与えるもの
・ 個人的な因子: 遺伝的特質、成長発達段階、身体運動機能、知識・情報獲得能力、認知・判断能力、経済力と生活能力、生きることに対する考え方や価値観
・ 個人を取り巻く因子: 居住空間や居住地区、職場や労働環境の物理的、生物的、化学的、経済・社会的環境、および予期しない環境の変化
4)生活と健康
(1)生活のリズムと健康との関わり
・ 人の生活リズムは、生物体としてのバイオリズムと社会的動物としての活動パターンによって規定されます。
・ バイオリズム(biorhythm)とは、生体が心臓の拍出やホルモンの放出、1日の昼夜の変化、月単位や季節単位の変化に合わせて反応を示す基本的な特徴のことをいいます。 中でも1日周期のリズムは、サーカデイアンリズム(circadian rhythm:概日リズム、日内リズム)と呼ばれます。 このサーカデイアンリズムを支配する生体内の機構を体内時計といいます。
・ 人の活動パターンは、昼と夜の変化に合わせた活動と休養が基本となっています。 休養の最たるものが睡眠で、睡眠中にエネルギーが補給され、翌日の活動のためのエネルギーが貯められることになります。
(2)生活習慣と健康との関わり
・ 生活習慣が関係する疾患を予防するためには、早期発見早期治療という2次予防よりも、健康増進、発病予防といった1次予防に重点を置くことが求められています。
・ II型糖尿病(インスリン非依存性)の発症には、運動や食事などの生活習慣が大きく関与しており、1次予防の徹底が重要となります。
・ 様々な体格指標のうち、肥満の判定には体脂肪との関係を想定できるBMI(body mass index)が使われることが多く、日本肥満学会ではBMI25以上を肥満としています。
BMI=体重(kg)/身長(m)2
・ 脳卒中の死亡順位は第3位ですが、総患者数は高齢化を受けて増加し、介護の原因の約3割を占め、発症予防として生活習慣の改善が非常に重要になっています。
(3)生活の要素と健康の関わり
・ 食事は、栄養素の供給という生理学的な意味を持つだけでなく、食べる楽しみを通して生きる活力をもたらすものです。
・ 食物摂取や消化吸収は、食事の動作の障害、咀嚼、嚥下、消化管の通過などの食物摂取機能の障害、消化器系疾患による消化機能の障害などによって影響を受けます。
・ 栄養や食生活が低下あるいは欠如した場合には、栄養不良となり易感染状態を引き起こします。
・ 排泄とは、生体内で生じた代謝産物や老廃物を体外に排出することをいい、それが正常に機能しない場合には健康障害が引き起こされます。
・ 一般的に排泄障害とは、排尿と排便が障害される場合をいいます。
・ 排泄障害の原因はさまざまですが、それぞれの原因に応じた対処法を用いる必要があります。
・ 皮膚や毛髪からの汚れの除去は、皮膚の生理的機能を正常に保つとともに、爽快感をもたらし、健康な生活を送る上で大切な行為です。
・ 適切な衣生活は、体温調節や身体の保護に必要で、さらに心理的な満足感をもたらし、重要なことです。
・ 活動や運動は身体機能を維持するために必要で、心理・社会的なストレスの解消の解消につながることも少なくありません。 身体的な活動や運動が制限される場合には、替わりに知的活動や情緒的活動を取り入れることが求められます。
(4)QOL
・ QOL(生活の質)は、生活や健康の状態を考える時に欠かすことのできない概念です。
・ QOLは本来、自分の生活全般に関する主観的な総合評価ですが、それを客観的に評価する場合には、身体的な健康状態、社会・経済的な状態、人間関係や社会的な支援、価値観などの側面を総合的に判断することが必要となります。
・ QOLの測定指標の開発が、特定の健康状態にある人を対象に行われつつあります。
[設問] WHOの世界保健大憲章の前文に書かれた健康の定義は次のどれか?
イ 健康とは、病気を持たないことである。
ロ 健康とは、疾病もなく、虚弱でもないことである。
ハ 健康とは、身体的、精神的に完全に良好な状態のことである。
ニ 健康とは、単に疾病がない、あるいは虚弱ではないというだけでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態のことである。
正解 (ニ)
[設問] サーカディアンリズムとは、どの期間のバイオリズムのことをいうのか?
イ 一年 ロ 季節 ハ ひと月 ニ 一日 ホ 一時間
正解 (ニ)
[設問] 予防医学における一次予防にあたるものを一つ選べ。
イ 健康増進
ロ 人間ドック
ハ 高血圧の治療
ハ リハビリテーション 正解 (イ)
[設問] メタボリック症候群の診断基準の組み合わせを選べ。
イ LDLコレステロール高値・HDLコレステロール低値・高血圧・空腹時高血糖・腹囲大
ロ 中性脂肪高値・HDLコレステロール低値・高血圧・空腹時高血糖・腹囲大
ハ 中性脂肪高値・高尿酸血症・高血圧・空腹時高血糖・腹囲大
ニ LDLコレステロール高値・高尿酸血症・高血圧・空腹時高血糖・腹囲大
正解 (ロ)
[設問] 以下の式の( )に入るものを選べ。
BMI = 体重 / ( )2
イ 腹囲 ロ 年齢 ハ 身長 ニ 胸囲
正解 (ハ)
[設問] 平成23年の死因の4位であり、介護が必要な原因として最も多かったものは次のどれか?
イ 脳血管疾患 ロ 悪性新生物 ハ 心疾患 ニ 慢性閉塞性肺疾患
正解 (イ)
基礎看護学(2)(看護の概念) [基礎看護学]
2)看護の対象者としての人間
(1)人間の捉え方
・ 人の行動を理解する手がかりとして、欲求と動機付け、葛藤、欲求不満(攻撃、代償、防御機制)、ストレスコーピングなどの理論や考え方があります。
・ 人の成長・発達を理解する手がかりとして、身体的成長における一般的な原則、認知的発達の段階、社会・心理的な発達課題の考え方があります。
・ 一般的な原則として、身体的成長には、成長の順序、方向性、成長速度の変化、個人差、臨界期があります。臨界期というのは、ある機能を獲得するのに適した時期のことをいいます。
・ 認知機能の発達に関しては、ピアジェによる感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の発達段階の考え方がよく示されます。
・ エリクソンとハヴィガーストは人の生涯をいくつかの段階に分けて、それぞれの時期に取り組むべき課題、発達課題(life task)を示しました。
(2)人間と環境
・ 生体の内部環境を一定に維持する機構は、ベルナールによって提示され、キャノンによってホメオスタシス(homeostasis:恒常性、平衡状態)と名付けられました。
・ ホメオスタシスとは、具体的には血液のpH、血圧、体温などが生命を維持できる比較的狭い範囲に維持されるもので、その範囲内では常に変動しており、固定したものではありません。主に自律神経による神経性調節とホルモンによる液性調節で維持されています。
・ デユボスは健康状態を環境への適応レベルでとらえ、生存と健康は、環境の変化に対して内部環境をほぼ恒常状態に維持できる能力に依存していると考えました。
・ ナイチンゲールの看護の概念は、患者の生命力の消耗を最小にするよう環境を整えるという看護における環境論でもあるのです。
[設問] ヒトの成長において、ある機能を獲得するのに適した時期のことを何というか? 一つ選べ。
イ 成長期
ロ 発達期
ハ 適齢期
ニ 臨界期 正解 (ニ)
[設問] 生体の内部環境を一定に維持する機構の存在はベルナールによって提示されたが、それをホメオスターシスと名付けたのはだれか?
イ キャノン ロ エリクソン ハ ピアジェ ニ デュボス
正解 (イ)
基礎看護学(1)(看護の概念) [基礎看護学]
1.看護の基本となる概念
1)看護の本質
(1)看護の対象
・ 看護は、家庭、学校や職場、病院や施設などあらゆる場にいる人間を対象としており、それは、あるときは個人、あるときは家族、あるときは集団としてとらえることになります。
・ 看護はその対象となる人間を、生物や医学的な側面プラス心理・社会的側面から統合された存在として、つまり、全人的にとらえるものです。
・ 看護の対象となるのは、弱さとともに強さをもった人間です。
(2)社会的役割
・ 社会のルールである法律では、看護師の業務内容を保健師助産師看護師法の第5条において、療養上の世話と診療の補助として規定されています。
・ 看護の役割は、健康の保持・増進、健康の回復あるいは安らかな死を実現するための様々なニーズを充足できるよう必要な援助を行うこととされています。
・ 実際の看護活動としては、日常生活行動の援助と診療に伴う援助に大別することができます。
・ 日常生活行動の援助は、看護師独自の判断で行える活動領域であって、それには、身体的援助活動、精神・心理的援助活動、教育活動、環境調整などが含まれています。
・ 保健医療福祉の高度化・複雑化・多様化の中で、新たな看護の役割としてサービス利用者への権利擁護の働きが重要になってきています。
(3)社会的機能
・ 看護は、対象者が身体的、精神的、心理的、社会的に最適健康状態になることを目指して機能しています。
・ 看護の機能には、身体的援助、環境の整備・調整、教育的機能、心理援助などがあります。
・ 看護活動は、患者のニーズに対して問題解決技法に基づいた看護過程を用いて実践していきます。
・ 看護とは、高度な科学的知識と技術を使って仕事を行う専門的職業です。
[設問] 看護の対象となるのは次のどれか? 一つ選べ。
イ 病気になった人間
ロ 病院を受診する患者
ハ 肉体的だけでなく、精神的にも弱った人間
ニ あらゆる健康レベルにある人間 正解 (ニ)
[設問] 保険師助産師看護師法の第5条で規定される看護師の業務内容は次のどれか?
イ 療養上の世話と診療の補助
ロ 看護計画の作成と看護診断
ハ 保険医療福祉活動
ニ 患者の身体的、精神的、心理的援助活動 正解 (イ)
[設問] 看護の社会的機能とされるのは、次のどれを目指すものか? 一つ選べ。
イ 身体的・心理的健康状態 ロ 社会的健康状態 ハ 身体的・精神的健康 ニ 最適健康状態
正解 (ニ)
基礎看護学(5) (看護の展開)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-05-12-2
基礎看護学(8) (共通基本技術)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14-2
基礎看護学(13) (基本的日常生活援助技術)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19
基礎看護学(19) (診療に伴う技術)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-05-25
基礎看護学(24) (看護の役割と機能を支える仕組み)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-05-28-1
疾病の成り立ちと回復の促進 第56回(リハビリテーション) [疾病の成り立ちと回復の促進]
疾病の成り立ちと回復の促進 第1回(疾病とは)へ ⇒ http://shiratorik-kango.blog.so-net.ne.jp/2013-04-05
5)その他
(1)リハビリテーション
A)概略
・ 運動器疾患、脳神経系疾患においては、その機能障害に対して回復のためにリハビリテーションが行われます。
・ リハビリテーションには、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語訓練(ST)がある。最近では、視機能の訓練も行われるようになってきています。
・ 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士などによって行われます。
B)理学療法(PT)
・ 理学療法とは、身体に障害のある人に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療のために運動、体操、または電気刺激、マッサージ、温熱などの物理的手段を加えることをいいます。
・ 対象となるのは、整形外科疾患、脳卒中などの脱力を伴う神経内科領域の疾患です。
C)作業療法(OT)
・ 作業療法とは、身体または精神に障害のある人に対し、主としてその応用的動作能力または社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作などの作業を行わせて治療することをいいます。
・ 対象となるのは主に、運動・作業能力が低下した神経内科領域の疾患群となります。
D)言語聴覚療法(ST)
・ 言語訓練とは、言語機能または聴覚、摂食・嚥下機能に障害のある人に対して、その機能の回復、維持、向上を図るために訓練を行い、必要な検査、助言、援助を行うことをいいます。
・ 対象となるのは、失語症、構音障害、嚥下障害を伴う神経内科領域の疾患です。
[設問] リハビリテーションの中で、電気療法、温熱療法、マッサージなどの物理的手段が取り入れられているものはどれか? 一つ選べ。
イ 理学療法 ロ 作業療法 ハ 言語聴覚療法 ニ 視能訓練
正解 (イ)
[設問] 嚥下障害に対する治療が含まれるのは次のどれか? 一つ選べ。
イ 理学療法 ロ 作業療法 ハ 言語聴覚療法 ニ 視能訓練
正解 (ハ)
以上で「疾病の成り立ちと回復の促進」は終了です。次回からは「基礎看護学」です。