疾病の成り立ちと回復の促進 第30回(薬剤) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(2) いろいろな薬剤
A)病原微生物に対する薬剤
a) 消毒薬
ア)アルコール類: 微生物の蛋白を変性させることによって作用を示します。70%エタノールと90%イソプロピルアルコールが一般的に使われています。
イ)アルデヒド類: 微生物の蛋白を変性させることによって作用。 ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどがあります。
ウ)ハロゲン化合物
・ ヨード: ヨードチンキ(ヨウ素、ヨウ化カリウムを含むエタノール液)は、健常な皮膚の消毒に効果的。 しかし、過敏症の人があり、皮膚炎をおこすことがあります。 また、ポビドンヨード(ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体)は皮膚の消毒、手術時の皮膚の消毒に使われます。
・ 塩素: 塩素は次亜塩素酸の形で抗微生物作用を示します。塩素は現在主に、水の消毒に使われています。
エ)酸
・ ホウ酸は局所刺激が少なく、粘膜や皮膚の防腐に用いられています。
・ 安息香酸は食品防腐剤に使われています。
オ)酸化剤
・ 過酸化水素や過マンガン酸カリウムは、発生する活性酸素による作用を持ち、創傷、潰瘍の殺菌、消毒のために使われます。
カ)重金属、水銀化合物
・ マーキュロクロムが有機水銀化合物であり、皮膚表面、創傷、潰瘍の消毒に使われます。
キ)フェノール類
・ フェノール類は蛋白質の変性作用により殺菌作用を示します。 しかし、組織刺激性が強いので、誘導体であるクレゾールが使われることが多いようです。 皮膚、器具、排泄物などの消毒に使われています。
ク)界面活性剤
・ 逆性石鹸として塩化ベンザルコニウムなどがあります。
ケ)色素類
・ アクリノールが化膿創の消毒に使われます。
コ)クロルヘキシジン
[設問] 発生する活性酸素による作用を利用して殺菌、消毒に使われるのはどれか?
イ ホウ酸 ロ 過酸化水素 ハ ヨードチンキ ニ エタノール
正解 (ロ)
[設問] 有機水銀化合物で、皮膚表面、創傷、潰瘍の消毒に使われるのはどれか?
イ ホウ酸 ロ 過酸化水素 ハ マーキュロクロム ニ エタノール
正解 (ハ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第29回(薬剤) [疾病の成り立ちと回復の促進]
J)薬剤の効果を左右する因子
・ 一般的因子: 体重、年齢、性差、肝機能と腎機能、他の薬剤との相互作用、服薬の徹底の度合
・ 偽薬(ぎやく)効果(プラセボ効果): 心理的要因で薬理作用のないもので効果がみられることをいいます。
・ 薬剤耐性: 薬剤を連用しているときに現れる薬効の低下
・ 薬物依存(やくぶついぞん): 薬剤を連用しているときにおこる習慣性が生じることがあります。 重症化した場合、薬剤を中止すると禁断症状(きんだんしょうじょう)が現れ、これを嗜癖(しへき)(耽溺)と呼びます。 習慣性と嗜癖を合わせて薬物依存と呼びます。
K)医薬品の開発
・ 新規の化合物の開発 → 前臨床試験(培養細胞、動物などを使った薬理作用をみる試験と安全性をみる試験があります)→ 第1相臨床試験(動物試験での効果がヒトでも現れるかどうかをみます)→ 第2相臨床試験(少数の患者で試験、薬効と副作用をみます)→ 第3相臨床試験(多数の患者群で対照薬との比較試験)→ 新薬として認可 → 発売後、第4相臨床試験(新たな薬物相互作用、まれな有害作用がないかどうかを調査)
[設問] 以下の文で正しいものを一つ選べ。
イ 偽薬効果とは、心理的要因で薬理作用のないものに効果がみられることをいう。
ロ 薬剤耐性とは、連用するうちに副作用がみられなくなることをいう。
ハ 薬物での禁断症状とは、長く飲まなかった薬剤を再度飲んで出る症状をいう。
ニ 薬物依存とは、薬物を連用していることをいう。
正解 (イ)
疾病の成り立ちと回復の促進 第28回(薬剤) [疾病の成り立ちと回復の促進]
F)薬剤の吸収経路
・ 舌下: ニトログリセリンなどは舌下投与され、口腔粘膜下の静脈は門脈を介せず、直接全身循環に入ります。
・ 腸: 経口投与された薬剤は腸粘膜のリン脂質二重層のバリアーを通り抜け、門脈から肝臓へ送られます。 ここでは、疎水性(親油性)物質または輸送系を利用できる薬剤のみが吸収されます。
・ 気道: 気道の線毛上皮細胞のリン脂質二重層バリアーがあるが、ガスや揮発性の吸入麻酔薬などは肺胞からすみやかに吸収されます。
・ 直腸: 直腸粘膜下の静脈叢から門脈を経ず、直接全身循環に入るので吸収効率のよい経路です。 各種坐薬がこの経路から吸収されることになります。
・ 皮膚: 局所作用を目的として軟膏剤やクリーム剤、全身作用を期待してニトリグリセリンのテープ剤や軟膏が、この経路から投与されます。
G)血液組織関門
・ 薬剤は毛細血管で組織間液に移行するが、この毛細血管が血液組織関門となります。 そのため、すべての物質がここを通り抜けられるわけではありません。
・ 脳や脊髄といった中枢神経では、毛細血管の内皮細胞に小孔がなく物質移送がより制限されたものとなっています。 これを血液脳関門といいます。 この血液脳関門を通過できる薬剤はごく限られたものとなります。
H)薬剤の代謝と排泄
・ 薬剤の代謝では、肝臓の酵素が最も重要な役割を演じています。 代謝されたものは、血液中か胆汁中に分泌されます。
・ 薬剤は代謝産物かそのままの形で、主に腎臓を介して排泄されます。 これを腎性排泄と呼びます。
I)薬剤の血中濃度
・ 薬剤の血中濃度が半減する時間を半減期といいます。
[設問] 門脈を経由する吸収経路は次のどれか? 一つ選べ。
イ 舌下 ロ 小腸 ハ 直腸 ニ 気道 正解 (ロ)
[設問] 薬物代謝で最も重要な役割を果たす臓器を一つ選べ。
イ 肺 ロ 腎臓 ハ 心臓 ニ 肝臓 正解 (ニ)
[設問] 血液組織関門となるのは次のどれか?
イ 大動脈 ロ 中小動脈 ハ 毛細血管 ニ 静脈 正解 (ハ)
疾病の成りたちと回復の促進 第27回(薬剤) [疾病の成り立ちと回復の促進]
4)薬剤
(1) 薬剤による治療の概念
A)薬剤治療の目的
・ 薬剤の投与によって疾病の原因を除いたり、症状を緩和する目的で薬物治療は行われます。
B)薬剤の作用と効果
・ 薬剤の作用は生体の構成単位である細胞に働き、その機能を強めたり(促進、亢進、興奮)弱めたり(抑制、麻痺)します。その結果が効果ということになるのです。
・ 薬剤の投与により、生体の持つ機能を量的に変えることはできますが、質的に新たな機能を生じさせることはできません。
・ 薬剤の作用は、一定の量までは細胞の機能を促進しても、それを過ぎるとかえって抑制する場合もあります。
C)薬剤の作用機序
・ 薬剤が結合して効果を生じる部位を作用部位といいます。 作用部位の大半は生体細胞の受容体(じゅようたい)です。
・ 受容体を刺激するものを作動薬(さどうやく)(アゴニスト)、作動薬の作用を遮断するものを拮抗薬(きっこうやく)(アンタゴニスト)と呼びます。
D)薬剤の主作用と有害作用(副作用)
・ 薬剤の望ましい作用は主作用(しゅさよう)または薬効(やっこう)といいます。
・ 薬剤の有害な作用は、一般に副作用(ふくさよう)と呼ばれます。
・ 副作用の原因としては、量が多すぎる(過量(かりょう))、投与される人の感受性が何らかの要因で高まっている(感受性亢進(かんじゅせいこうしん))、遺伝的に感受性が高い(遺伝的素因)、薬剤の作用臓器に選択性がない(薬剤の特異性の欠如(とくいせいのけつじょ))などがあります。
E)薬剤アレルギー(薬剤過敏症)
[設問] 薬剤の作用に関する以下の文で、正しいものを一つ選べ。
イ 薬剤の投与により、生体に、質的に新たな機能を生じさせることができる。
ロ 薬剤は、投与量を増やせば増やすほど、細胞の機能を促進できる。
ハ 薬剤の作用部位である受容体を刺激するものを作動薬、作動薬の作用を遮断するものを拮抗薬という。
ニ 薬剤の作用は、望ましいものも有害なものも含めて薬効という。
正解 (ハ)
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疾病の成りたちと回復の促進 第26回(免疫機構) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(4)体液性免疫と細胞性免疫
A)体液性免疫
・ ある抗原に対して特異抗体を産生し、その抗体を介する免疫反応を体液性免疫と呼びます。
・ 抗体は、抗原と特異的に反応する糖蛋白(とうたんぱく)(糖と蛋白からなる物質)であり、血清中の免疫グロブリンとして存在しています。
・ 抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD、IgMがあります。
・ IgGは血清抗体の主役で、感染防御の中心的役割を果たしており、胎盤を通過する唯一の抗体です。
・ IgMは初感染後、最初に産生される抗体です。
・ IgAの分泌型は、乳汁、唾液、涙、粘液などに含まれ、粘膜の感染防御に役立ち、また母乳中に含まれるため新生児の感染防御に役立っています。
・ IgEはI型アレルギーに関与します。
B)細胞性免疫
・ 活性化したマクロファージは殺菌作用を持ち、さらにさまざまなサイトカインを産生して炎症反応を促進します。
・ 細胞傷害性T細胞は、ウイルスなどの感染した細胞や腫瘍細胞に対し、抗原特異的に(抗原提示により認識した抗原に対し)傷害を与えます。
・ NK細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞に対し、抗原非特異的に(抗原の種類に関係なく)傷害を与えます。
C)各種病原体に対する免疫系の働き
・ 細菌外毒素: 破傷風毒素やボツリヌス毒素などの外毒素(がいどくそ)に対しては、抗毒素中和抗体(こうどくそちゅうわこうたい)が働きます。
・ 細胞外の細菌: 黄色ブドウ球菌などの感染では、まず粘膜面で分泌型IgAが細菌の付着を妨げます。 他方、病原体に対する抗体がオプソニンとして働き、サイトカインによって好中球や活性化したマクロファージが集められ貪食、殺菌が行われます。 これに補体が加わって殺菌の効率が上がるのです。
・ 細胞内の細菌: マクロファージの中で増殖する結核菌などには、抗体がつくられても感染には役に立ちません。 そのため、細胞傷害性T細胞が感染マクロファージを破壊し、病原体を追い出し、活性化マクロファージが貪食、殺菌します。 また、活性化マクロファージや活性化T細胞は肉芽腫(にくがしゅ)をつくり、病原体を閉じ込めます。
・ ウイルス: インターフェロンが細胞に働きウイルスの増殖を抑制し、細胞傷害性T細胞やNK細胞を活性化し、ウイル
ス感染細胞を破壊することによってウイルスの増殖の場を無くします。
[設問] 抗体はどんな物質か? 以下より選べ。
イ 糖脂質 ロ 糖蛋白 ハ リン脂質 ニ ペプチド
正解 (ロ)
[設問] 胎盤を通過する抗体は次のどれか?
イ IgG ロ IgM ハ IgA ニ IgD ホ IgE
正解 (イ)
[設問] 初感染後、最初につくられる抗体は次のどれか?
イ IgG ロ IgM ハ IgA ニ IgD ホ IgE
正解 (ロ)
[設問] 母乳中に含まれ、新生児の感染防御に役立つのはどれか?
イ IgG ロ IgM ハ IgA ニ IgD ホ IgE
正解 (ハ)
[設問] 粘膜面で黄色ブドウ球菌の付着を妨げるのはどれか?
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ マクロファージ ホ 分泌型IgA
正解 (ホ)
[設問] 細胞外にある細菌を貪食、殺菌するのは次のどれか?
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ マクロファージ ホ NK細胞
正解 (ニ)
[設問] 感染マクロファージを壊して病原体を追い出すのはどれか?
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ 好中球 ホ 好酸球
正解 (ロ)
[設問] ウイルス感染細胞を破壊してウイルスの増殖の場をなくすのはどれか? 二つ選べ。
イ 形質細胞 ロ 細胞傷害性T細胞 ハ B細胞 ニ NK細胞 ホ インターフェロン
正解 (ロ、ニ)
疾病の成りたちと回復の促進 第25回(免疫機構) [疾病の成り立ちと回復の促進]
3)免疫機構
(1)免疫とは?
・ 免疫とは、外部から侵入する微生物や移植された同種組織および体内に生じた不要産物などと反応して特異的な抗体をつくり、これらを排除して個体の恒常性を維持する現象です。
・ 免疫応答とは、生体が自己と異なるものを抗原と認識し、特異的に抗体を産生して抗原に対応し処理する一連の防御機構のことをいいます。
(2)免疫担当細胞
A)T細胞
・ 骨髄の幹細胞由来のリンパ系の細胞で胸腺に入り、増殖、分化した後末梢のリンパ組織に分布している細胞がT細胞であり、Tは胸腺(Thymus)のTです。
・ T細胞にはヘルパーT細胞(CD4分子を発現)、細胞傷害性T細胞(CD8分子を発現)、制御性T細胞があります。
B)B細胞
・ リンパ系の細胞で骨髄の影響を受けて分化し、末梢リンパ組織に分布しているのがB細胞です。
・ B細胞は抗原刺激を受けると抗体産生を行う形質細胞(けいしつさいぼう)となります。
C)マクロファージと樹状細胞
・ マクロファージは骨髄の造血幹細胞由来の単球から分化する細胞で食作用を持ち、異物を貪食、処理します。 マクロファージは抗体、補体に対する受容体を持っており、それらの結合した病原体を貪食します。 この貪食を促進する抗体や補体のことをオプソニンといいます。
・ 樹状細胞(じゅじょうさいぼう)は、分解した抗原をT細胞に提示する代表的な抗原提示細胞(こうげんていじさいぼう)です。 マクロファージやB細胞も抗原提示能を持っています。
D)顆粒球
・ 好中球は、炎症のあるところに集まり、貪食、殺菌作用を示します。
・ ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、抗原の種類に関係なく非特異的に細胞傷害性を示す細胞です。
(3)抗原提示
・ 抗原である異物がマクロファージや樹状細胞に貪食・分解されるとHLAと結合して細胞表面に提示されます。 これを抗原提示といいます。 これをきっかけにその後の細胞性免疫と体液性免疫が発動していくことになります。
[設問] 直接、抗体をつくる細胞はどれか?
イ B細胞 ロ ヘルパーT細胞 ハ 細胞傷害性T細胞 ニ 形質細胞
正解 (ニ)
[設問] CD4分子を発現するのはどれか?
イ B細胞 ロ ヘルパーT細胞 ハ 細胞傷害性T細胞 ニ 形質細胞
正解 (ロ)
[設問] CD8を発現するのはどれか?
イ B細胞 ロ ヘルパーT細胞 ハ 細胞傷害性T細胞 ニ 形質細胞
正解 (ハ)
[設問] マクロファージは、何から分化する細胞か? 一つ選べ。
イ 単球 ロ 好中球 ハ 好酸球 ニ 好塩基球
正解 (イ)
[設問] 抗原提示能を持つのはどれか? 二つ選べ。
イ マクロファージ ロ 樹状細胞 ハ 好塩基球 ニ 好中球 ホ T細胞
正解 (イ、ロ)
[設問] 抗原の種類に関係なく非特異的に細胞傷害を示すのはどれか?
イ 好中球 ロ 好酸球 ハ 好塩基球 ニ NK細胞 正解 (ニ)
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疾病の成りたちと回復の促進 第24回(修復と再生) [疾病の成り立ちと回復の促進]
2. 回復の促進
1)総論
・ 疾病の回復に働く因子にも内因と外因がある。
・ 内因: 生体に本来備わっている再生・修復機能、免疫機構 など
・ 外因: 薬物療法、栄養、環境因子 など
2)修復と再生能
(1)概論
・ 修復とは、変性、壊死(退行性変化)によって組織傷害や欠損がおこった場合に、周辺の正常細胞の細胞分裂、増殖によって健常な細胞、組織に置換、補填されることをいいます。
・ 再生とは、生体の一部が欠損した場合、その部位が固有の細胞、組織で補われる現象をいいます。
(2) 細胞分裂と増生
A) 細胞の細胞分裂の可能性から分類
a) 分裂を繰り返す細胞: 表皮基底細胞、血液幹(かん)細胞、精祖細胞 など。この場合、分裂前と分裂後の細胞が同じで変化がありません。
b) 分裂と分化を繰り返す細胞: 前赤芽球、骨髄芽球など。 この場合、分裂を繰り返しながら段階的に分化していきます。
c) 分化した細胞で、正常では分裂しないが、分裂能は持っている細胞: 肝細胞、腺上皮細胞など。
d) 分裂能を失った細胞: 神経細胞、心筋細胞、赤血球など。
(3) 再生
・ 一般に、個々の細胞の脱落に対しては隣接する細胞が分裂することによって再生する過程が生理的に行われています。 (皮膚、粘膜の重層扁平上皮、消化管粘膜の円柱上皮、腺上皮)
・ 病的な状態で細胞分裂により再生が行われる臓器もあります。(肝臓、膵臓)
・ 欠損が大きいと、完全再生は不可能で、部分再生、あるいは肉芽による修復の結果、瘢痕となります。
(4) 肥大
A) 肥大とは?
・ 肥大とは、機能的需要の増大に反応して、組織、臓器が容積を増す状態のことです。
・ 生理的肥大と病的状態に続いておこる病的肥大に分けることがあります。
B)作業性肥大
・ アスリートのスポーツ心、発達した骨格筋(生理的肥大)、高血圧による肥大した心筋(病的肥大)などをいいます。
C)内分泌性肥大
・ 授乳期の乳腺肥大(生理的肥大)、子宮内膜増殖症(病的肥大)、成長ホルモン過剰による末端肥大症(病的肥大)などがあります。
D)仮性肥大
・ 筋ジストロフィーの腓腹筋の肥大などがあります。
(5)化生
・ 化生(かせい)とは慢性の刺激に反応して、分化、成熟した細胞が異なる形態や機能を示すに至る状態をいいます。
・ 子宮頸管上皮や気道上皮の扁平上皮化生(腺上皮または線毛円柱上皮→扁平上皮)、逆流性食道炎での腺様化生(扁平上皮→腸上皮)、慢性胃炎での腸上皮化生(腸上皮型の単細胞腺の出現)などがあります。
(6)肉芽
・ 肉芽(にくげ)とは、組織欠損、組織傷害、異物の侵入に反応して間葉系組織の強い新生、特に線維芽細胞の増生によって形成される組織のことをいいます。
・ 肉芽の役割としては、創傷治癒、器質化(線維化、瘢痕化)、被包化(ひほうか)(異物などの周囲に肉芽が新生して結節状になること)があります。
(7)創傷治癒
・ 1次性治癒: 創傷が大きな組織の欠損を伴わず、創面を外科的に容易に密着させうる場合におこる治癒機転で、肉芽形成は少ないものです。
・ 2次性治癒: 創傷が大きい場合、欠損部位の補填のために比較的大きな肉芽を形成し、瘢痕形成、周辺組織の再生などみられる場合をいいます。
・ ケロイド: 修復に際し、肉芽形成が過剰におこると周囲より盛り上がって瘢痕化します。 これをケロイドと呼びます。
[設問] 次の細胞の中で、分裂能を失ったものを一つ選べ。
イ 表皮基底細胞 ロ 骨髄芽球 ハ 肝細胞 ニ 赤血球
正解 (ニ)
[設問] アスリートの発達した骨格筋は次のどれにあたるか?
イ 病的肥大 ロ 作業性肥大 ハ 内分泌性肥大 ニ 仮性肥大
正解 (ロ)
[設問] 化生についての説明で正しいものを一つ選べ。
イ 慢性の刺激に反応して、分化、成熟した細胞が異なる形態や機能を示すことをいう。
ロ 機能的需要の増大に反応して、容積が増すことをいう。
ハ 周辺の正常細胞の細胞分裂、増殖によって健常な細胞、組織に置換、補填されることをいう。
ニ 生体の一部が欠損した時、固有の細胞、組織で補われる現象をいう。
正解 (イ)
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疾病の成りたちと回復の促進 第23回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
E) 腫瘍の内因・外因・発生機序
a) 内因(腫瘍素因)
ア) 臓器: 臓器によって腫瘍のできやすさに差があります。 十二指腸には癌が少なく、心臓・脾臓には原発性腫瘍は稀です。
イ) 年齢: 中年以降に悪性腫瘍の発生頻度は加速度的に増加していきます。 若年者や小児には白血病、神経系腫瘍、肉腫の割合が多いとされています。
ウ) 性: 悪性腫瘍全体の頻度は男性で高いのですが、乳癌、胆嚢癌、甲状腺癌は女性に多いといわれます。
エ) 人種: 欧米では生殖器(前立腺、子宮)や乳癌が多く、日本では消化器、特に胃癌が多いといわれています。
オ) 遺伝: 家族性に発生する腫瘍としては網膜芽腫、家族性大腸ポリポーシス、多発性神経線維腫(フォン・レックリン
グハウゼン病)があります。
b) 外因
ア) 化学的因子: ベンゾピレン(タバコの煙、排気ガスに含まれる)、アニリン誘導体、ジメチルアミノアゾベンゼン、ナイト
ロジェンマスタード、ポリ塩化ビフェニル、ベンゼン
ヘキサクロライド など
イ)物理的因子:
・ 機械的刺激 舌癌
・ 高温ないし火傷: 皮膚癌
・ 光線・紫外線: 皮膚癌
・ 放射線: 白血病、肺癌、口腔癌、甲状腺癌 など
ウ)生物学的因子
・ ウイルス
エ)癌遺伝子
・ 原型癌遺伝子(げんけいがんいでんし)(癌原(がんげん)遺伝子): もともとは正常の細胞が受精発育、分化成長していく過程では必要不可欠な遺伝子なのに、細胞を癌化する能力のある遺伝子のことをいいます。
・ ウイルス癌遺伝子: 腫瘍発生にかかわる、ウイルスが内蔵する癌遺伝子のことです。
オ)癌抑制遺伝子
・ 正常な遺伝子で、癌化を抑制する働きのあるもののことです。
カ)発癌のしくみ
・ 発癌は癌遺伝子の活性化に始まります。 これをイニシエーションといい、ひきおこす因子をイニシエーターといいます。 また、癌化した細胞を増殖させる因子をプロモーターといいます。
[設問] 癌の発生が最も少ないものを選べ。
イ 食道 ロ 胃 ハ 十二指腸 ニ 大腸 正解 (ハ)
[設問] 家族性に発生するものを一つ選べ。
イ 乳癌 ロ 肺癌 ハ 白血病 ニ 多発性神経線維腫 正解 (ニ)
[設問] 因子と発生する腫瘍の組み合わせで正しいものを一つ選べ。
イ 機械的刺激 --- 肺癌
ロ 紫外線 --- 胃癌
ハ 放射線 --- 甲状腺癌
ニ アルコール --- 脳腫瘍 正解 (ハ)
疾病の成りたちと回復の促進 第22回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
D) 悪性腫瘍の進展と生体への影響
a) 浸潤と転移
・ 浸潤とは腫瘍細胞が周期の組織の隙間に割り込んで連続性に発育することをいい、転移とは腫瘍細胞が原発巣(げんぱつそう)とは離れた場所に非連続的な発育を行って新たな増殖巣(ぞうしょくそう)をつくることをいいます。
b)転移の種類
ア)リンパ行性転移: 癌組織の所属リンパ節からリンパ管を経由して転移する場合をいいます。 胃癌などがリンパ管→胸管を経由して左鎖骨上窩(さこつじょうか)リンパ節に転移した場合、これを特にウイルヒョウの転移と呼びます。
イ)血行性転移: 血管内に侵入した腫瘍細胞が、腫瘍細胞栓子として遠くに運ばれ、着床(ちゃくしょう)し増殖して場合をいいます。 一般に肉腫はリンパ行性転移より血行性転移が多いといわれます。
ウ)播種(はしゅ): 胸膜、腹膜、髄膜などに沿って表面を種をまくように小転移巣が広がる場合をいいます。 進行するにつれ滲出液が貯留します。 癌性胸膜炎、癌性腹膜炎、癌性髄膜炎などもこの範疇に入ります。 胃癌などがダグラス窩(直腸膀胱)に播種した場合シュニッツラーの転移と呼びます。
エ)その他: 気管支癌などでは、管腔内転移がおこります。
c)全身的影響
ア)循環障害: 腫瘍の機械的な圧迫による血行障害、腫瘍塞栓、低蛋白血症のための浮腫、末期にはDICなどがおきます。
イ)感染症: 腫瘍そのものによる免疫能の低下に加え免疫抑制作用のある治療のため免疫不全がおこり、日和見(ひよりみ)感染症などもおこりやすくなります。
ウ)悪疫質: 蛋白質の消費が多くなり、免疫能の低下、栄養不良などのため体力の消耗が進み顕著なやせがおこります。
d)ラテント癌とオカルト癌
[設問] ウイルヒョウの転移はどれに属するか?
イ リンパ行性転移
ロ 血行性転移
ハ 播種
ニ 管腔内転移 正解 (イ)
[設問] 癌性腹膜炎はどれによる転移か?
イ リンパ行性転移
ロ 血行性転移
ハ 播種
ニ 管腔性転移 正解 (ハ)
[設問] シュニッツラーの転移はどれによるものか?
イ リンパ行性転移
ロ 血行性転移
ハ 播種
ニ 管腔性転移 正解 (ハ)
疾病の成りたちと回復の促進 第21回(病態のいろいろ) [疾病の成り立ちと回復の促進]
(8)腫瘍
A) 腫瘍とは?
・ 腫瘍とは、生体固有の細胞が無制限かつ不可逆的に増殖し、体表または体内に継続的に新たな体積を占める病変のことです。
B)良性腫瘍と悪性腫瘍
a) 良性と悪性の一般的相違点
ア)発育: 良性は緩徐、悪性は急速
イ)発育の前線: 良性は限局性で境目が明らか、悪性は周囲へ浸潤
ウ)臓器機能: 良性では機能障害は軽度、悪性では高度
エ)転移: 良性ではみられず、悪性では高頻度
オ)全身への影響: 良性では少、悪性では著明
カ)手術による摘除: 良性では容易、悪性では全摘困難
キ)再発: 良性では少、悪性では高頻度
ク)予後: 良性では良好、悪性では不良
b) 病理学的相違点
ア)肉眼的所見: 良性は表面が平滑で、境界明瞭、単純な膨張性発育、悪性では表面が不規則で、境界不鮮明で、膨張性+浸潤性(しんじゅんせい)発育
イ)組織学的所見: 良性では細胞配列が保たれ(構造異型(いけい)なし)、個々の細胞や核の大きさや形がそろっている(細胞異型なし)のに対し、悪性では細胞配列はくずれ、細胞や核の大きさや形がばらばらです(異型性(いけいせい))。
ウ)細胞学的所見:
・ 核/細胞比が高いほど未分化(みぶんか)で、悪性度が高くなります。
・ 核分裂像が多いほど、悪性度が高くなります。
・ 核の形が異様で不規則なもの、濃く染まるものほど悪性度が高くなります。
・ 組織内に壊死が見られるほど、悪性度が高くなります。
C) 組織発生に基づく腫瘍の分類
a) 上皮性腫瘍
・ 皮膚、粘膜上皮、腺上皮などから発生した腫瘍をいいます。
・ 上皮性腫瘍で悪性のものを癌腫(がんしゅ)と呼びます。
b)非上皮性腫瘍
・ 筋肉、骨、軟骨、軟部組織(線維、脂肪、神経など)の非上皮性組織から発生した腫瘍をいいます。
・ 非上皮性組織由来の悪性腫瘍を肉腫(にくしゅ)と呼びます。
c)混合腫瘍、その他
・ 2種類以上の異なる組織由来の細胞群からなる腫瘍を混合腫瘍といいます。
・ 乳腺の線維腺腫、唾液腺の多形成腺腫、奇形腫などがあります。
[設問] 以下より悪性腫瘍の特徴を二つ選べ。
イ 周囲へ浸潤する傾向が強い。
ロ 臓器の機能障害は軽度である。
ハ 転移はみられない。
ニ 再発が高頻度である。
ホ 全身への影響はないか、少ない。 正解 (イ、ニ)
[設問] 悪性腫瘍の病理学的特徴を二つ選べ。
イ 表面が平滑である。
ロ 境界は不鮮明である。
ハ 細胞配列が保たれている。
ニ 核/細胞比が低い。
ホ 核分裂像が多く、濃く染まる。 正解 (ロ、ホ)
[設問] 以下の文で正しいものを一つ選べ。
イ 上皮性腫瘍で悪性のものを肉腫と呼ぶ。
ロ 筋肉から発生した悪性腫瘍は癌腫である。
ハ 2種類以上の異なる組織由来の細胞群からなるのは、混合腫瘍である。
ニ 腺上皮から発生した腫瘍は、混合腫瘍である。
正解 (ハ)